ep.77 流れ着いた者たち
焚き火のそばに、七つの寝床が並んでいた。
干した布、温めた湯、そして静かな火。
孝平と波留は、交代で見守りながら、眠る者たちの呼吸を確かめていた。
「……全員、生きてるな」
波留が、湯を注ぎながらつぶやく。
「でも、体力は限界だ。しばらくは、休ませるしかない」
「うん。……それにしても、どうしてこんなに大勢で……」
最初に目を開けたのは、白い衣をまとった女性だった。
その瞳は、深い湖のように静かで、けれどどこか遠くを見ていた。
「……ここは……?」
「火の輪。島の名だよ」
孝平が答えると、彼女はゆっくりと身を起こした。
「私は……エトワール。癒しの務めを持つ者です。
……助けていただき、感謝します」
次に目を開けたのは、銀縁の眼鏡をかけた青年だった。
「……記録が……記録が……」
「落ち着いて。ここにいるよ」
ミミルが、そっと手を添えると、青年は眼鏡を押し上げた。
「……ルア。神殿付きの記録官です。
この場所の地理と気候、記録しても?」
「うん。でも、まずは水を飲んで。体が先だよ~」
その後も、ひとり、またひとりと目を覚ます。
「……ブラン。聖女様の護衛です。
……ここは安全なのか?」
「少なくとも、今はね」
波留が短く答える。
「……ミニョンですけど? ここ、どこ? 水は? 着替えは? 鏡は?」
「えっと……順番に出すから、ちょっと待ってて~」
ミミルが慌てて布を差し出す。
「ルージュ、騎士。ミニョン様の安全を最優先とする。
不審な動きがあれば、容赦はしない」
「……火の輪に“容赦”はないよ。あるのは、火と暮らしだけ~」
最後に目を覚ましたのは、まだ幼い少女だった。
金の髪、透き通るような肌、そして――
「……ソレイユ姫様!」
騎士のひとりが、慌てて駆け寄る。
「ガルド……ここは……?」
「ご安心を。敵意はありません。……今は、休まれてください」
七人の漂着者たち。
それぞれが、異なる立場と役割を背負っていた。
けれど、火の輪には、肩書きも階級もなかった。
風鈴が、ふたたび鳴った。
その音は、静かに、けれど確かに――
“ここにいていい”と告げているようだった。
今回は、漂着者たちが目を覚まし、
それぞれの“名”と“立場”が明かされる回でした。
火の輪に残っているのは、孝平・ミミル・波留の三人だけ。
そこに、七人の来訪者が加わることで、
静かな暮らしに新たな波が押し寄せます。
次回は、孝平と波留が“火の輪の掟”を語る回。
火の前では、誰もがただの“暮らし手”――
その意味が、少しずつ伝わっていきます。
それじゃ、また火のそばで。




