ep.69 気まぐれな贈り物
朝、畑の隅に、見慣れないものが落ちていた。
丸くて、つやのある石。
触れると、ほんのりあたたかい。
「……これ、昨日のお返しか?」
孝平は、そっと拾い上げた。
石の表面には、うっすらと◎のような模様が浮かんでいる。
「精霊の……贈り物?」
「わ~! それ、土の精霊さんの“気まぐれ石”だよ~♪」
ミミルが、目をきらきらさせて跳ねた。
「たま~に気に入った人にだけ、くれるの~! やったねっ!」
「……気まぐれって、そんなにレアなのか?」
「うんっ。しかもそれ、クラフトに使うと“何か”が起きるの~」
「何かって……何が起きるんだよ」
「それは、作ってみてからのお楽しみ~♪」
孝平は、作業台に向かった。
気まぐれ石を、そっと中央に置く。
「素材共鳴」
石の声が、かすかに響いた。
低く、やわらかく、でも芯のある音。
「……なるほど。これは、“土の記憶”か」
彼は、手元の木片と組み合わせ、
小さなスコップを作った。
けれど、ただの道具じゃない。
柄の部分に、石の模様が浮かび、
刃先には、土の精霊の気配が宿っていた。
「……これは、“耕す”だけじゃないな」
その日、スコップで畑を掘ると、
土がふわりと香り、ミミズが顔を出した。
「おお……土が、やわらかくなってる」
「それ、土の精霊さんが“手伝ってくれてる”んだよ~♪」
ミミルが、しっぽで◎を描く。
「精霊さんたち、孝平くんのこと、ちゃんと見てるの~」
「……ありがとな」
孝平は、スコップの柄をそっと撫でた。
「これからも、よろしく頼むよ」
風が吹いた。
畑の上を、葉がくるりと舞った。
今回は、精霊たちからの“気まぐれな贈り物”が届く回でした。
土の精霊がくれた石。
それは、ただの素材ではなく、
“暮らしを見ていた”という証でもあります。
クラフトアルケミストとしての孝平が、
素材と対話し、精霊の気配を道具に宿す。
その最初の一歩が、今回のスコップでした。
次回は、精霊たちとの“交換”が本格化します。
火の輪の暮らしが、島とどうつながっていくのか――
そのヒントが、またひとつ見えてくるかもしれません。
それじゃ、また火のそばで。




