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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん
水の章

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ep.7 かごと道と、分けあうということ

朝。 干し台の実は、いい具合に乾いていた。


表面はしわが寄って、 香りが、少しだけ深くなっている。 手に取ると、軽くて、やわらかい。


孝平は、ひとつひとつ確かめながら、 器にそっと移していった。


「……さて、かごを仕上げるか」


昨日の夕方、途中まで編んでいたかご。 枝と草を組んだ、素朴なつくり。 でも、持ち手の部分がまだできていない。


屋根の下で、火を見ながら、 孝平は草を裂いて、 指先でゆっくりと編みはじめた。


風が吹いて、干し台の器がかすかに揺れる。 その音が、どこか急かすようで、 どこか、待っていてくれるようでもあった。


草を裂いて、ねじって、編んでいく。 指先が覚えた動きに、 少しずつ、かたちがついていく。


「……持ち手は、こうして……」


枝を曲げて、輪にして、 草でくるむように巻きつける。 ぎゅっと締めると、 かご全体が、ひとつにまとまった気がした。


『わたし、ここに入るの?』 『誰かに、届くのかな』


干し実の声が、 風にまぎれて聞こえた気がした。


「……届くといいな」


孝平は、ぽつりとつぶやいた。 誰に、とは言えない。 でも、“分けあいたい”という気持ちだけは、 確かにそこにあった。


「……誰かが来たときのために、ってのも変か」


けれど、そう思った瞬間、 “誰かが来る未来”が、ふっと現実味を帯びた。


かごの中に、干し実をそっと並べる。 そのひとつひとつが、 まるで贈り物のように見えた。


かごは、思ったよりもしっかりしていた。 持ち手を握ると、草の編み目が手になじむ。 背負ってみると、重さも悪くない。


「……いけそうだな」


干し実の入ったかごを背に、 孝平は拠点のまわりをゆっくり歩いてみた。


足元の土は、まだやわらかい。 けれど、昨日よりも乾いていて、 歩くたびに、かすかに音がする。


「……道、って感じだな」


振り返ると、足跡がひとすじ、 屋根のほうへと続いていた。


『どこに行くの?』 『わたし、ちゃんと運ばれる?』


かごの中で、干し実が揺れる。 その声に、孝平は小さくうなずいた。


「運ぶよ。ちゃんと、運ぶ」


そしてふと思った。 道具って、未来を運ぶものかもしれない。


火も、水も、土も、 それを扱う手も、 全部、未来のためにある。


拠点の境目に立つと、 風がひとすじ、頬をなでていった。


目の前には、まだ歩いたことのない道。 草がまばらに揺れていて、 その先に、なにかが待っているような気がした。


「……ちょっとだけ、行ってみるか」


かごの重みが、背中に心地よい。 中には、干し実がいくつか。 誰かに渡すあては、まだない。


けれど、“分けあいたい”という気持ちが、 足を前に出させた。


一歩。 土が、やわらかく沈む。


もう一歩。 風が、背中を押してくれる。


『わたし、ちゃんと届くかな』 『誰か、受け取ってくれるかな』


孝平は、かすかに笑った。 その声は、風にまぎれて、遠くへ流れていった。


道の先に、光が差していた。 それは、朝の名残のようで、 どこか、誰かの気配のようでもあった。

ご覧いただきありがとうございます。


今回は、「分けあう」という気持ちをテーマに書きました。


誰かがいなくても、分けたいと思うこと。 それは、まだ見ぬ誰かを迎える準備なのかもしれません。


かごを編み、干し実を詰めて、 一歩だけ、拠点の外へ出てみる。


小さな動きですが、 物語の空気が少し変わるきっかけになればと思っています。


次回も、静かに続いていきます。

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