ep.55 港の設計図
鍛冶場の火が、静かに燃えていた。
炉の奥では、ローミスリルの余熱がまだ残っている。
そのそばで、イサリが大きな紙を広げていた。
「……これが、港の設計図だ」
孝平とぽぷらんが、紙の上をのぞき込む。
描かれていたのは、火の輪の海辺に沿って広がる、
桟橋、荷揚げ場、船着き場、そして小さな見張り台。
「船を迎えるだけじゃない。
火の輪の素材を、外に運び出す道でもある」
イサリの声は、低く、しかし確かだった。
*
「ここ、緑が足りないかも」
サヤが、図面の端を指さした。
「海辺の植物、移してもいい? 風よけにもなるし、
火の輪らしい“迎え方”になると思うの」
「いいな、それ」
孝平がうなずく。
「火の輪は、ただの港じゃない。……帰ってこられる場所にしたい」
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
「じゃあ、火の輪の“入口”を、ここにしよう」
*
その日の午後、火の輪の仲間たちが集まり、
港の基礎工事が始まった。
舟の人々の中から、大工だった者が手を挙げ、
若者たちが材を運び、母たちが食事を用意した。
餡子熊王は、鉄板を抱えて現れた。
「働く者には、焼き餅と焼き魚だ。……腹が減っては、港は打てぬ!」
笑い声が、火の輪に広がる。
火の輪の海辺に、初めて杭が打ち込まれた。
それは、波の音に混じって、確かな音を響かせた。
今回は、火の輪に“港の設計図”が広がる回でした。
火の輪はこれまで、「集まる場所」「火を囲む場所」として描かれてきましたが、
ここからは「迎える場所」「送り出す場所」としての役割も帯びていきます。
イサリの設計図は、ただの建築図面ではなく、
火の輪の未来を描いた“地図”のようなもの。
そしてサヤの提案や、仲間たちの手が加わることで、
その地図は少しずつ“火の輪らしいかたち”になっていきます。
杭を打つ音、笑い声、焼き餅の香り――
それら全部が、火の輪の港の“基礎”になっていく。
そんな気配を感じてもらえたら嬉しいです。
次回は、いよいよ火の輪の船に名前をつける回。
火の輪の物語が、またひとつ節目を迎えます。
それでは、また火のそばで。




