ep.413 桃源郷の対価:オーロラ温泉と無償の愛
氷結渓谷の夜空が、突如として極彩色のカーテンに覆われた。惑星エネルギーを「経費」で強引に励起させ、天空に踊るオーロラ。その真下には、宝石を溶かしたような乳白色の「天然オーロラ温泉」が、幻想的な輝きを放っていた。
「にゃうにゃあ! 今日は特別なのですー! 頑張る皆さんに、私からの『無償の愛』をプレゼントするのですー!!」
咲姫の号令とともに、これまで「開拓エリア」で震えていた新人アイドルたちに、黄金の招待状が配られた。
■ 無償の極楽:0NkQの宴
湯船には、うさちぁぁんが「あはは、今日は無礼講だよぉ~」と上機嫌で注ぎ回る最高級の酒が溢れている。湯上がりには、騎士が極寒の山嶺で仕留めた怪鳥の肉を、雷電がその鋭い剣筋で「細胞を壊さず」に捌き、餡子熊王が自慢の剛腕で叩き上げた「極上ステーキ」が並ぶ。本来なら数万NkQは下らない贅沢の数々だが、アリシアが「さらっと」告げる。
「……本日、すべての飲食代、施設維持費、およびオーロラの投光経費は『福利厚生費』として計上されました。皆様の支払いは、0NkQです」
新人たちは涙を流して歓喜した。「咲姫様、なんてお優しいの!」「ホワイトすぎる……!」彼女たちは至福の表情で、オーロラを見上げながら最高級の肉を頬張る。その「完璧に幸せそうな笑顔」こそが、咲姫の求める最高の素材であった。
■ 猫二の誤算:砕かれた野望
一方で、温泉の裏手では猫二が泡を吹いていた。彼はこの日のために、密かに新人たちへ「温泉入浴用のタオル」や「湯上がりの特製牛乳」を法外な利息で売りつける闇契約を準備していたのだ。
「そんな……バカにゃ! 全部タダにされたら、俺様の商売が成り立たないにゃ! このタオルの在庫、どうすればいいにゃ!?」
そこへ、咲姫がキラキラした笑顔で現れる。「にゃはは! 猫二さん、ちょうど良かったのですー! そのタオル、皆さんが体を拭くのに必要だと思って、私が『全在庫を適正価格(二束三文)』で買い叩いておいたのですー! もちろん、寄付扱いなので猫二さんの徳も上がるのですー!!」
猫二のビジネスプランは、咲姫の「慈愛」という名の圧倒的な物量作戦の前に、粉々に粉砕された。
■ 見えない犠牲と守護者たち
この「0NkQの楽園」を維持するため、実力者たちは休む間もない。バッシュは温泉の周囲を固める「動く壁」となり、猛獣の侵入を許さない。超新人は、うさちぁぁんの酒が進むように、湯船の端で懸命に「盛り上げ役のダンス」を披露し、微かな投げ銭をその身に浴びている。
しかし、この豪華な食材も、温かなタオルも、元を辿れば画面の外……「協力会社」という名で買い叩かれた他惑星の労働者たちが、不眠不休で供出したものだった。アリシアの端末には、それらの供給元から届く絶望的な悲鳴(請求書)が並んでいるが、彼女はそれらを「さらっと」非表示にする。
「いい画が撮れたです♪ これこそが、誰も傷つかない、愛に満ちた世界なのですー!」
咲姫の満足げな呟きと共に、パルミエの夜は更けていく。あまりにも白すぎるその景色は、もはや現実の色彩を失い、美しい白昼夢へと溶けていった。
ピックアップ
バッシュ(Lv.18:不動の防壁)
「無料の宴」に水を差す原生生物を、一歩も動かずに弾き飛ばし続ける門番。その強固な守りは、今や「温泉のプライバシーを守る安全な囲い」として経費計上されている。
雷電(Lv.18:神速の料理人)
騎士が狩ってきた獲物を、目にも留まらぬ速さで調理する。彼の剣技は今や「食材の鮮度を落とさない最高の調理器具」として咲姫に絶賛されている。本人は静かに、次の獲物を見据えている。
超新人(Lv.1:微活躍のダンサー)
「無料の宴」という名の中、唯一「実力で稼ぐ」ために湯船の脇で踊り続ける少年。うさちぁぁんから「あはは、一生懸命だねぇ~」と投げられた小銭が、今日の彼の唯一の報酬である。
今話では、咲姫の「慈愛」が既存の経済圏(猫二の小銭稼ぎ)を完全に無効化する様子を描きました。すべてが無料という「ホワイト」な皮を被せることで、騎士や雷電といった実力者たちの労働さえも「美しい奉仕」としてパッケージングされます。抵抗する理由を奪われたまま、皆が幸せそうに搾取される。これこそがパルミエの真実です。
【裏話】
たまには全力ホワイトな咲姫(ピュアな頃を思い出したくなった)を書きたくなって書きました。
完璧なピュア(純真)ではないけど、限りなくキュア(毒浄化)に書けたと思う。いかがでしょう?




