ep.400 逆転維持費と「理想」の対価
「にゃうにゃあ! 記念すべき400回目の配信なのです! 皆さん、見てください! この星系には、もはや『家賃を払う』なんて悲しい概念は存在しないのですー!!」
咲姫が宣言すると、新人たちの網膜に「逆転維持費」のログが流れる。
Lv.11以上に到達した彼女たちの口座には、毎日、住んでいるだけで $NkQ が振り込まれていく。文字通り、寝ているだけで「得(徳)」をする世界。
だが、新人Eは自分の姿を鏡で見て、愕然とした。支給されたのは、清潔だが味気ない「白い麻のワンピース」と、無味乾燥な「白いパン」だけ。
「……さらっと。補足します。この星系は、皆様の『生存』を100%保証します。ですが、皆様が夢見た『アイドルとしての輝き』は、配給品には含まれておりません」
アリシアが指し示した「ホワイト・マーケット」の価格表は、新人たちの心を折るのに十分だった。
【清楚なフリル衣装セット】: 50,000 NkQ
【さらさらヘアケア・シャンプー】: 5,000 NkQ
【特製イチゴショートケーキ】: 3,000 NkQ
「Lv.11の私の給与、1日20NkQなのに……シャンプー買うのに250日もかかるの!?」
ボサボサの髪で白い麻袋のような服を着て、無味なパンをかじる。それは「生存」していても、「アイドル」ではなかった。画面の向こうのファンは、そんな「ただ生きているだけの女」には $NkQ を投げない。
「あはは~! 新人ちゃん、そんな格好じゃ『坂道アイドル』っていうより『修道女』だねぇ~!」
Lv.20【酒樽】のうさちぁんが、宝石を散りばめたドレスを揺らし、最高級のステーキを頬張りながら笑う。彼女の日給120,000NkQがあれば、毎日衣装を新調してもお釣りがくる。
「理想の生活がしたかったら、もっと必死に『追加の労働』をしなきゃダメだよぉ~。ホワイトな世界は、欲張りさんにはお金がかかるんだからぁ~!」
新人Eは、自分の惨めな姿をファンに見られないよう、必死に顔を隠した。だが、隠せば隠すほど応援スコアは下がり、理想は遠のく。
「嫌……! 私、こんなボロ布を着てパンを食べるためにここに来たんじゃない! 私をもっと可愛くして! 課金してぇぇ!!」
彼女たちは、生存が保証された「安全な檻」の中で、より高価な「理想」という名の鎖を求めて、再び狂ったように踊り始めた。
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新人E(Lv.11): 「パンだけの女」と呼ばれる恐怖に耐えきれず、時給20NkQの給与をドブに捨てる覚悟で、高額な「キラキラエフェクト(1時間貸し出し)」に手を出す。
うさちぁん(Lv.20): 「ふふ、女の子の『美しくなりたい欲』は、一番いいNkQになるねぇ~」と、果林と新作ドレスのカタログを眺める。
騎士「俺はパンと水だけで十分だが……アリスたちのリボン代を稼がないとな」と、結局、家族のために過酷な残業へと向かう。
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「逆転維持費」が生んだのは、働かなくていい自由ではなく、「働かないと惨めになる」という究極の同調圧力でした。 何もしなくても死なない。でも、何もしないと「輝けない」。 清楚なアイドルたちが、一切れのケーキや一着の衣装のために、かつてのブラック時代よりも必死な形相で踊る姿……。 これこそが、完成されたホワイト・エンターテインメントですね!




