ep.26 火の輪のまわりで ―祭りの前の、静かな手仕事―
火の輪のまわりに、テントがひとつ、またひとつと増えていく。 布を張る音、木槌の音、笑い声。 静かだった拠点に、少しずつ“暮らしの音”が混ざりはじめていた。
孝平が火の輪に薪をくべると、ぽぷらんがしっぽを揺らしながら近づいてきた。 その後ろには、ふわふわの白い耳がぴょこぴょこと跳ねている。
「……誰?」
アリシアが目を細めて問いかけると、白いもふもふがぴょんと跳ねた。
「やっほ~♪ あたし、ミミルだよっ! うさちぁんの使い魔で~す!」
孝平は、少しだけ目を見開いた。
「……ミミル? 君が?」
「うんっ! こうへいくんが“ちゃんと暮らしてるか”見に来たのっ♪ 今日は“見守り隊”だよ~。あと、パンの匂いに釣られて来ちゃった!」
ぽぷらんがくすくす笑いながら言った。
「この子、火の輪にぴったりだよね。なんか、あったかい感じ」
「……まあ、悪さしないなら、歓迎するわ」
アリシアが肩をすくめ、火の輪に視線を戻す。
咲姫が、火の輪のそばに小さな布屋根を張っている。 その下には、リリアーナが束ねた霧草や月根が並べられていた。
「明日は南の崖まで行く予定です。あそこにしか生えない“火草”があるのです」
「護衛は任せて。あの辺、魔獣の巣があるからね」
アリシアが腰の護符を軽く叩きながら、にやりと笑う。
その横では、果林が木材を削っていた。 手際よく組まれていくのは、素材を並べるための棚。
「この棚があれば、瓶も転がらない。……次は作業台ね」
「瓶なら、こっちにあるよ」
リリアーナが、火の輪の反対側から声をかける。 その手には、昨日洗ったばかりのガラス瓶がいくつも揺れていた。
「採取記録もまとめておいたよ。次のルート、これで決めやすくなると思う」
「ありがとう。……火の輪の周りが、だんだん“町”になってきたな」
孝平は、火輪石のそばにしゃがみ込みながらつぶやいた。 火は、今日も静かに、でも力強く燃えている。
瑛里華が、火の輪の温度を測りながら言った。
「この温度帯なら、保存薬の精製もいける。……あ、誰か空き瓶持ってきて」
「はーい、今持ってくー」
ぽぷらんが、しっぽで瓶を器用に運んでいく。 その後ろを、ミミルがぴょんぴょんと跳ねながらついていく。
「こうへいくん、ちゃんと休んでる? お昼、食べた?」
「……今から食べるところ」
「うそだぴょん! さっきからずっと火の前にいたでしょ!」
ミミルがふわふわの耳で孝平の頬をぺちぺち叩く。 孝平は苦笑しながら、火の輪のそばに置かれたパンを手に取った。
パンの香ばしい匂いが、火の輪のまわりに広がる。
「……うん。うまい」
「でしょでしょ~♪ リリアーナちゃんが焼いたんだよっ!」
火の輪のまわりでは、それぞれが自分の作業に集中していた。 誰も指示はしていない。けれど、自然と役割が分かれ、流れが生まれている。
咲姫たちは、明日の採取に向けて準備を進めている。 果林と瑛里華は、火の輪の周囲を“工房”として整えている。 リリアーナは記録と補給を支え、ぽぷらんとミミルは全体をつなぐ。
そして孝平は、火の輪の中心で、火をくべ続けていた。
「……この火が、みんなの“暮らし”を支えてるんだな」
火が、ふわりと揺れた。 まるで「そうだよ」と言っているように。
そのとき、空の向こうから、かすかな風の音が聞こえた。 誰かが、遠くから近づいてくる気配。
孝平は、火の輪を見つめながらつぶやいた。
「……もうすぐ、来るのかもしれないな。次の“誰か”が」
火は、静かに、しかし確かに、燃え続けていた。
今回は、火の輪のまわりに“暮らし”が根づきはじめる様子を描きました。 それぞれが自然に動き、役割が分かれ、拠点が“町”として息づきはじめる。 その空気感を、テンポよく、でも丁寧に描けたらと思って書きました。
そして、今回がミミルの初登場回! ふわふわの耳と、ちょっとお節介な優しさで、火の輪に新しい風を運んでくれました。 彼女の存在が、孝平の“暮らし”をどう彩っていくのか、これからが楽しみです。
次回はいよいよ「火の輪の予行祭」。 それぞれが作ったものを持ち寄り、火の輪の“最初の祭り”が始まります。 新たな来訪者の気配も、そろそろ……?
それでは、また火のそばで。




