ep.194 ミナの沈黙
ミナは、町のはずれの小道を歩いていた。
咲姫の言葉が、胸の奥に残っていた。
——語ることは、火を灯すこと。
でも、根を張るには、
その火を“自分の土”に置かなくちゃいけないのです。
自分の土。
自分の火。
自分の言葉。
ミナは、立ち止まった。
目の前には、かつての家の跡があった。
瓦礫の下に、見覚えのある柱が埋もれていた。
あの夜、逃げるしかなかった場所。
誰も助けられなかった場所。
ミナは、そっとしゃがみこんだ。
土に触れる。
冷たくて、ざらついていて、
でも、どこか懐かしい。
「……私は、何もできなかった」
その言葉が、土に吸い込まれていく。
「逃げて、泣いて、
誰かの火にすら、手を伸ばせなかった」
けれど、咲姫の言葉が、
胸の奥で、静かに灯っていた。
——それでも、火はそこにあった。
責めもせず、励ましもせず、
ただ、そこに在った。
ミナは、ポケットから小さな紙切れを取り出した。
それは、咲姫の記録の一節だった。
彼女は、それをそっと地面に置いた。
そして、自分の声で、つぶやいた。
「……私も、語っていいのかな」
そのとき、足元の土が、
かすかにあたたかくなった気がした。
『土の章・拾肆
ミナの沈黙。
語れなかった者の沈黙が、
言葉に変わるとき、
土はそれを受けとめ、
新たな根を育て始める。』
“土の章”拾肆つ目は、ミナの沈黙。
火の章で、火に手を伸ばせなかったミナが、
今、言葉に手を伸ばし始めました。
語ることは、勇気ではなく、
“沈黙に耳をすますこと”から始まるのかもしれません。
ミナの語りは、まだ始まっていません。
けれど、その沈黙の奥にある声が、
確かに土に届きはじめています。
また、次の土で。




