ep.191 咲姫の言葉
夜の広場に、火把の灯りが揺れていた。
咲姫は、記録帳を膝にのせ、
そっと筆を取った。
リオから預かった、半分の記録帳。
その最初のページに、何を書くか。
ずっと考えていた。
風の咲姫の言葉は、軽やかで、まっすぐだった。
でも、今の自分は、まだそこまで風になれない。
だから——
咲姫は、ゆっくりと筆を走らせた。
——私は、咲姫、なのです。
でも、風の咲姫とは、たぶん違います。
私は、火を見て、土に触れて、
ようやく自分の声を見つけました。
だから、私は語ります。
風の咲姫が舞った町で、
火を継いだ者として、
土に根を張る者として。
私は、咲姫、なのです。
そして、私の咲姫は、ここから始まるのです。
筆を置いたとき、
咲姫は、少しだけ涙をこぼした。
それは、悲しみではなかった。
むしろ、ようやく“自分の声”に出会えたことへの、
静かなよろこびだった。
『土の章・拾壱
咲姫の言葉。
継がれた名が、
新たな声を持つとき、
その言葉は、記録ではなく、
“根”となって土に残る。』
“土の章”拾壱つ目は、咲姫の言葉。
風の咲姫の言葉をなぞるのではなく、
今の咲姫が、自分の声で語ることを選びました。
それは、名を継ぐ者としての責任であり、
同時に、名を“自分のものにする”ための第一歩。
咲姫の言葉は、これからの町の記録に、
新しい根を張っていくでしょう。
また、次の土で。




