ep.186 風の抜け道
翌朝、町の探索が始まった。
咲姫は、荷車に道具を積み直しながら、
リオとミナに地図を手渡した。
「このあたり、昔は“風の回廊”と呼ばれていたのです。
風が通り抜ける道が、いくつもあったそうなのです」
リオは、地図をのぞきこんだ。
細い路地が、まるで迷路のように描かれている。
「じゃあ、今日はそこを見てみようか」
三人は、崩れかけた石畳の道を進んだ。
風が、どこからともなく吹き抜ける。
まるで、誰かの笑い声のように。
やがて、古びたアーチの下にたどり着いた。
その上には、かすれた文字が刻まれていた。
——風の咲姫、ここに舞う。
咲姫が、足を止めた。
その目が、文字をじっと見つめる。
「……やっぱり、ここにも“咲姫”がいるのです」
ミナが、そっと咲姫の手を取った。
「でも、今ここにいるのは、咲姫さんだよ」
「……うん。ありがとう、なのです」
リオは、記録帳を開き、文字を写し取った。
そして、ふと気づいた。
アーチの裏側に、何かが彫られている。
土に埋もれかけたその文字を、
咲姫がそっと指でなぞった。
——風は、いつか土に還る。
けれど、咲き続けることを、私は選ぶ。
咲姫は、目を見開いた。
その言葉が、胸の奥に、まっすぐ届いた。
「……これ、私の……?」
誰も、答えられなかった。
ただ、風がまた、ひとすじ吹き抜けていった。
『土の章・六
風の抜け道。
風が通り過ぎた場所に、
土は静かに記憶を抱いている。
名を刻む石、残された言葉。
それは、過去と今をつなぐ、
見えない回廊。』
“土の章”六つ目は、風の抜け道。
風の章で語られた町、エルシンフォリア。
その痕跡が、土の中から少しずつ顔を出し始めました。
咲姫という名が、またひとつ、
過去と現在をつなぐ鍵となって現れます。
けれど、まだ答えは出ません。
それでも、確かに何かが動き始めています。
また、次の土で。




