ep.184 記録の継ぎ目
リオは、崩れかけた集会所の奥で、
古い記録箱を見つけた。
風にさらされ、土に埋もれていたそれは、
かろうじて形を保っていた。
咲姫とミナが、そっと蓋を開ける。
中には、湿った紙束と、
乾ききったインク壺がひとつ。
リオは、慎重に紙をめくった。
そこには、かすれた文字が並んでいた。
——咲姫、風の祭りにて、
鐘を鳴らしながら、広場を駆け回る。
「風は自由なのです!」と叫びながら。
リオは、思わず手を止めた。
「咲姫……?」
隣で見ていた咲姫が、首をかしげた。
「それ、私のこと……なのですか?」
「……わからない。でも、君の名前がある」
咲姫は、紙をのぞきこむ。
そこに書かれた“咲姫”の言葉を、
声に出して読んでみる。
「『風は自由なのです!』……?
……そんなこと、言った覚えはないのです」
ミナが、ぽつりとつぶやいた。
「でも、ちょっと似てる。
咲姫さんの“なのです”、そのまんま」
咲姫は、しばらく黙っていた。
そして、小さく笑った。
「ふしぎ、なのです。
知らないのに、なんだか……懐かしいのです」
リオは、記録帳の余白に、そっと書きつけた。
——“咲姫”という名の記録が、複数ある。
語り口も、性格も異なる。
だが、どこかで重なっているような気がする。
『土の章・四
記録の継ぎ目。
記された名が、過去と現在をつなぐ。
同じ名、異なる声。
記録の奥に、まだ語られていない何かがある。』
“土の章”四つ目は、記録の継ぎ目。
記録とは、過去を知るための道具。
けれど、記録そのものが、
ときに“謎”を生むこともあります。
咲姫という名に宿る違和感。
それは、偶然の一致なのか、
それとも、何かが継がれている証なのか。
土の章は、こうして少しずつ、
“重なり”の物語へと踏み込んでいきます。
また、次の土で。




