ep.183 土の声
リオは、井戸のそばにしゃがみこみ、
土に指を触れた。
ひんやりとして、しっとりと重い。
けれど、どこか懐かしい感触だった。
「……ここ、まだ生きてる」
ミナがぽつりとつぶやいた。
咲姫は、荷車から小さな鍬を取り出し、
広場の端にしゃがみこんだ。
土を、ひとすくい。
その下から、小さな白い根がのぞいた。
「見てください、リオさま。
この土、まだ息をしているのです」
リオはうなずいた。
そして、火把のそばに、記録帳を広げた。
けれど、何を書けばいいのか、わからなかった。
火の章では、灯った火を記した。
風の章では、語られた声を記した。
では、土の章では——?
そのとき、足元から、かすかな震えが伝わってきた。
地鳴りではない。
もっと静かで、もっと深い、
まるで“誰かが目を覚ました”ような、そんな気配。
リオは、記録帳の端に、そっと書きつけた。
「土が、返事をした」
『土の章・参
土の声。
語られなかったものが、
沈黙の奥から、かすかに応える。
火は灯り、風は去り、
今、土が目を覚ます。』
“土の章”参つ目は、土の声。
土は、語りません。
けれど、触れた者にだけ、
その重さや湿り気、根の気配を通して、
静かな返事を返してくれます。
リオたちは、まだ何も知らないまま、
この町の土に触れました。
その手のひらに伝わったものが、
これからの記録の“かたち”を変えていくかもしれません。
また、次の土で。




