ep.179 継がれた火
古い記録庫の奥、
ひとつの火把が、静かに燃えていた。
それは、かつて庵が使っていた火。
語り部としての旅を終えたあと、
彼がそっと残していったものだった。
今、その火を手に取ったのは、
若き記録見習いの少女——リオだった。
「これが……庵さまの火……」
彼女は、火把を両手で包み込むように持ち上げた。
火は、少しだけ揺れた。
けれど、消えなかった。
その火には、
数えきれない物語が染み込んでいた。
語られなかった声、記されなかった涙、
そして、誰かの選んだ火のかたち。
リオは、深く息を吸い込んだ。
そして、歩き出す。
「わたしが、この火を……語り継ぐのです」
その背に、まだ小さな火が灯っていた。
けれど、それは確かに、
次の章へとつながる火だった。
『秩序の火・拾玖
継がれた火。
誰かが灯した火を、
別の誰かが受け継ぐ。
その火は、記録となり、
未来へと続く灯りとなる。』
“秩序の火”拾玖つ目は、継がれた火。
火は、ひとりで燃えるものではありません。
誰かが灯し、誰かが受け継ぎ、
そうして、物語は続いていきます。
リオの火は、まだ小さな火。
けれど、彼女が歩き出したことで、
火の章は、次の節へと向かいはじめました。
そして、次の火が——
この章の終わりを告げることになるでしょう。
また、最後の火で。




