ep.177 喰らった火
その男は、燃えていた。
いや、燃えているように見えた。
火把も、火口も持っていないのに、
彼のまわりには、確かに熱があった。
名は、グレン。
かつて、山の火口近くで生き延びた者。
火に焼かれ、火に育てられ、
火を喰らって生きてきた。
モンスターの襲撃が始まった夜、
彼はひとり、南門に現れた。
武器も持たず、ただ素手で立っていた。
警備隊の者が止めようとしたとき、
グレンの拳が、赤く光った。
次の瞬間、彼の拳が振るわれ、
モンスターの影が、火花とともに吹き飛んだ。
誰かが叫んだ。
「……あれ、火だ! あの人、火を……!」
グレンは、何も言わなかった。
ただ、燃えるような目で、前を見据えていた。
『秩序の火・拾漆
喰らった火。
火を道具とせず、
火そのものとなった者がいる。
その火は、制御を超え、
秩序の境界を揺るがす。』
“秩序の火”拾漆つ目は、喰らった火。
火を使うのではなく、
火に呑まれ、それでも立ち上がった者。
グレンの火は、記録官たちにとっても、
分類の難しい火でした。
それは秩序の火なのか、
それとも、秩序を超えた“異質の火”なのか。
火の章は、いよいよ、
“火そのもの”の記録へと踏み込んでいきます。
また、次の火で。




