ep.172 偽りの灯
記録官のジョナサンは、報告書の束を前に、眉をひそめていた。
火の使用記録。
襲撃時の配置図。
各隊の火把の消費量。
そして、ある一枚の報告書。
「……この火、灯っていなかったのでは?」
その報告には、ある冒険者の名があった。
彼は、火を掲げていたと記されている。
だが、複数の証言では、
彼はその場にいなかったという。
ジョナサンは、静かに筆を取った。
記録官として、感情を交えず、事実だけを記す。
『秩序の火・拾弐
偽りの灯。
火を灯したと偽り、
秩序の中に身を置いた者がいた。
その火は、記録される。
偽りとして。』
彼は筆を置き、しばらく黙っていた。
窓の外では、まだ煙が上がっていた。
「……火を偽る者が出たか。
ならば、記録するしかない。
それもまた、秩序の一部だ」
“秩序の火”拾弐つ目は、偽りの灯。
火を灯したふりをして、
本当は何も持っていなかった者。
それは、秩序の中に潜む“空白”であり、
記録の中に生まれる“歪み”でもあります。
ジョナサンの記録は、冷静で正確。
けれど、その筆の重さは、
誰よりも知っているのかもしれません。
火の章は、真実だけでなく、
“偽り”もまた記録していく章です。
また、次の火で。




