ep.171 奪われた火
灯台のふもとに、焼け跡があった。
そこには、かつて小さな屋台があった。
夜ごと、団子を焼いていた老夫婦の店。
旅人も、子どもたちも、あの火を目印に集まっていた。
けれど今、そこに火はない。
屋台は崩れ、炭と化し、
鉄串だけが、黒く曲がって残っていた。
庵は、静かにその前に立った。
語り部である彼は、記録者ではない。
けれど、語られなかった火を、
語る役目を持っていた。
「……火を落としたのではない。
火を、奪われたのだ」
彼は、焼け跡に手をかざす。
そこに、もう熱はない。
けれど、匂いが残っていた。
甘い団子の香りと、焦げた木の匂い。
庵は、そっと語りはじめた。
誰もいない焼け跡に向かって。
『秩序の火・拾壱
奪われた火。
灯していた火を、
何者かに奪われた者たちがいる。
その火は、もう戻らない。
けれど、語られることで、残る。』
“秩序の火”拾壱つ目は、奪われた火。
火は、落とすこともあれば、拾うこともできる。
けれど、奪われた火は、もう戻らない。
それでも、語り部・庵のように、
その火を“語る”ことで、
火は別のかたちで残っていくのかもしれません。
火の章は、ただの勝敗や秩序の記録ではなく、
“喪失”と“記憶”の章でもあるようです。
また、次の火で。




