ep.169 拾った火
火把は、まだ燃えていた。
石畳の上、転がったままのそれを、
セシルはそっと拾い上げた。
火は、弱々しく揺れていた。
けれど、まだ消えてはいなかった。
彼女は、火を見つめる。
これは、誰かが落とした火。
恐怖に手を離した火。
でも、まだ生きている火。
「……よし」
セシルは、火把を握り直した。
そのとき、背後から唸り声。
振り返ると、黒い影がひとつ、こちらへ向かっていた。
セシルは、火把を高く掲げた。
影が一瞬、たじろぐ。
その隙に、彼女は声を張った。
「こっちよ! こっちに来なさい!」
火を振るいながら、影を引きつける。
その先には、まだ逃げ遅れた子どもたちがいた。
セシルは、火を掲げたまま、影の前に立ちはだかった。
『秩序の火・玖
拾った火。
誰かが落とした火を、
誰かが拾い、掲げる。
その火は、意志となり、盾となる。』
“秩序の火”玖つ目は、拾った火。
火は、誰かが落としても、
誰かが拾えば、また灯る。
セシルの火は、誰かの代わりに灯された火。
けれど、それはやがて、
彼女自身の意志として燃えはじめます。
火の章は、こうして少しずつ、
“つながる火”の記録になっていくのかもしれません。
また、次の火で。




