ep.164 禁の火
焼け跡は、まだ温かかった。
灰に埋もれた祠の前で、ルミナは立ち止まった。
氷雨は、無言で周囲を警戒している。
木々の一部が黒く焦げ、
地面には、焼けた札の残骸が散らばっていた。
「……これは、許可されていない火です」
ルミナは、低く言った。
祠の奥には、誰かが残した小さな火鉢。
中には、まだ赤い炭がくすぶっていた。
その上に、焦げかけた紙が一枚。
かろうじて読めた文字は、こう綴られていた。
『ここに、もう一度、風が来ますように』
ルミナは、紙片を火ばさみで拾い上げ、
灰の中に沈めた。
「……感情による火の使用。
秩序に反します」
「だが、誰かが願った」
氷雨が、ぽつりとつぶやいた。
ルミナは、しばらく黙っていた。
やがて、石板を開き、記録を始める。
『秩序の火・肆
禁の火。
許可なき火の使用を確認。
感情による点火。
記録し、処理を完了。』
氷雨が、焼け跡に布をかぶせる。
風が、灰を巻き上げた。
「……次へ向かいます」
ルミナは、背を向けた。
その背中に、灰がひとひら、静かに舞い落ちた。
“秩序の火”肆つ目は、**禁の火**。
燃えてはいけない場所で、
燃えてしまった火。
それは、誰かの願いだったのかもしれないし、
ただの衝動だったのかもしれません。
ルミナは、それを“秩序違反”として処理した。
けれど、氷雨のひとことが、
その火に“意味”を与えてしまったようにも思えます。
火の章は、秩序の中にある火だけでなく、
逸脱の火もまた、記録していく章なのかもしれません。
また、次の火で。




