ep.163 灰を払う
庁舎の裏手、石段の隅に、白露はしゃがみこんでいた。
手には、古びた箒。
風の宴が終わってから、誰も来ていない場所。
けれど、灰はまだ、そこに残っていた。
「……まったく。
風が吹いたあとって、いつもこれよ」
白露は、ため息まじりに灰を掃いた。
団子の焦げ跡。
燃え残った札の端。
誰かが落とした、鈴のかけら。
それらをひとつずつ拾い上げて、
白露は、そっと小箱に収めていく。
「別に、あんたたちのためじゃないけど。
……放っておくと、誰かが転ぶから」
誰もいない石段に向かって、そう言いながら、
彼女の手は、丁寧だった。
最後の灰を払ったとき、
白露はふと、空を見上げた。
風は、もういない。
けれど、空はどこか澄んでいた。
彼女は、袖から小さな帳面を取り出し、書きつけた。
『秩序の火・参
灰を払う。
風の宴のあとに残るもの。
誰かが片づけるから、次の火が灯せる。』
「……感謝なんて、いらないわよ。
仕事だから」
白露は立ち上がり、箒を肩にかけて歩き出した。
その背中に、ほんの少しだけ、風が吹いた。
“秩序の火”参つ目は、**灰を払う**。
風の宴が終わったあと、
誰かが灰を払い、片づけをしてくれるからこそ、
次の火が灯せる。
白露の手は冷たくて、あたたかい。
彼女の“仕事”は、記録には残らないかもしれないけれど、
火の章にとって、欠かせない火でした。
次は、ルミナと氷雨が出会う“秩序に反した火”か、
あるいは、火を恐れる誰かの話かもしれません。
また、次の火で。




