ep.160 灯り
夜の町に、ひとつだけ灯りがともっていた。
庁舎の掲示板の前。
咲姫が、小さな提灯をぶらさげて立っていた。
風は、もう吹いていない。
団子も、札も、今はない。
けれど、咲姫は、そこにいた。
「……風が来なくても、灯りはつけるのです」
誰に言うでもなく、咲姫はつぶやいた。
提灯の火が、ゆらゆらと揺れる。
その光が、掲示板の札を照らしていた。
咲姫は、懐から一枚の紙を取り出し、
そっと掲示板に貼りつけた。
『風の火・十四
灯り。
風がいなくても、火はここにある。
誰かが灯せば、風はまた来る。』
咲姫は、提灯を見上げた。
その灯りは、小さいけれど、消えそうにはなかった。
「……おかえりなさい、って言えるように。
ちゃんと、灯しておくのです」
夜風が、ほんの少しだけ、提灯を揺らした。
それは、風の章の終わりを告げるようでもあり、
次の章のはじまりを、そっと知らせるようでもあった。
“風の火”十四こ目、そして最後の火は、灯り。
風がいなくなっても、
誰かが火を灯していれば、
風はまた、戻ってくる。
咲姫の提灯は、小さな火だけど、
それは“迎えるための火”でした。
風の章は、ここでおしまい。
でも、火の記録はまだ続きます。
次の章へ。
また、新しい風が吹く場所で、お会いしましょう。
また、次の火で。




