ep.159 旅立ちの朝
荷をまとめる音が、静かな朝に響いていた。
孝平は、石板を背負い、最後の点検をしていた。
ミミルは、団子を包む布を整えている。
「……ほんとに、行くんだね」
ミミルがぽつりと言った。
「うん。風の章、ここまでだ」
孝平は、町の方を振り返った。
庁舎の掲示板には、新しい札がひとつ貼られていた。
咲姫の字だった。
『また、風が来たら、団子をこねます。』
孝平は、思わず笑った。
「咲姫らしいな」
「うん。……また来ようね」
うさちぁんが、祠の前で耳を揺らしていた。
風は、まだ吹いていなかった。
けれど、空気はやわらかく、どこかあたたかかった。
孝平は、石板を開いて記した。
『風の火・十三
旅立ちの朝。
記録を背負って、町を離れる。
風は止んでも、火は消えない。』
門をくぐるとき、背中にふわりと風が触れた。
それは、見送るでもなく、引き止めるでもなく、
ただ、そこにある風だった。
“風の火”十三こ目は、旅立ちの朝。
記録者たちが町を離れるとき、
風はもう吹いていなかったけれど、
その気配は、空気の中にちゃんと残っていました。
咲姫の札が、最後の火を灯してくれた気がします。
また風が来たら、団子をこねる。
その約束があるだけで、町はきっと大丈夫。
風の章、そろそろ終わりが見えてきました。
でも、火はまだ消えていません。
次は、風の章の締めくくり。
最後の火を、拾いにいきましょう。
また、次の火で。




