ep.157 背中
坂の上に、果林の背中が見えた。
祠の方を振り返って、しばらくじっと立っている。
風はもう止んでいた。
けれど、彼女の髪だけが、まだ揺れていた。
孝平とミミルは、少し離れた場所から、その姿を見ていた。
「……あの人、ずっとあそこにいるね」
ミミルが小声で言う。
「見送ってるんだろうな」
孝平は、石板を胸に抱えたまま、目を細めた。
果林は、何も言わずに、ただ風の通り道を見つめていた。
やがて、ひとつ深く息をついて、踵を返す。
その背中は、どこか寂しげで、
けれど、ちゃんと前を向いていた。
孝平は、石板を開いて記した。
『風の火・十一
背中。
風を見送る人がいた。
立ち止まり、振り返り、そして歩き出す。』
果林の足音が、石畳に吸い込まれていく。
風はもう吹いていない。
でも、あの背中が、風の続きを運んでいく気がした。
“風の火”十一こ目は、背中。
風が通り過ぎたあと、
それを見送る人がいる。
言葉もなく、ただ立ち止まり、
振り返って、また歩き出す。
その背中に、風の続きを感じました。
風の章も、そろそろ終盤。
次は、咲姫がもう一度団子をこねる朝か、
それとも、記録者たちが町を離れる前の最後の火かもしれません。
また、次の火で。




