ep.155 札あつめ
広場の片隅、石畳の上に、子どもたちがしゃがみこんでいた。
手には、色とりどりの紙片。
それは、風に吹かれて落ちた“風の札”だった。
「見て見て! これ、ハートの形してる~!」
「こっちは、においがするよ。パンの匂い!」
孝平とミミルは、通りがかりに足を止めた。
子どもたちは、札を並べて遊んでいる。
「それ、どこで拾ったの?」
「んー、あっちの道の角とか、祠の前とか!
風が落としてったの!」
ミミルが、そっとひとつの札を手に取る。
小さな文字で、こう書かれていた。
『きょうも、だれかが、わらってくれますように。』
「……これ、誰が書いたんだろう」
「わかんないけど、かわいいから持って帰る~!」
子どもたちは、札を折って、紙飛行機にして飛ばし始めた。
風に乗って、ひらひらと舞い上がる。
「……記録者としては、ちょっと複雑だな」
孝平が苦笑する。
「でも、風の札って、
こうやって遊ばれるために落ちてきたのかも」
ミミルが、紙飛行機を見上げながら言った。
孝平は、石板に記した。
『風の火・九
札あつめ。
子どもたちが拾った風の札。
願いは、遊びになって、また風に乗った。』
空を舞う紙飛行機が、くるくると回って、
やがて、どこかへ消えていった。
「……あれ、また誰かに届くといいな」
孝平がつぶやく。
「うん。風って、そういうものだもん」
ミミルが笑った。
風は、今日も遊びながら、町をめぐっていた。
“風の火”九つ目は、札あつめ。
子どもたちが、風の札を拾って遊ぶ。
それは、記録でも供物でもないけれど、
たしかに“風の通り道”に生まれた火でした。
願いが、紙飛行機になって、また風に乗る。
それって、すごく風らしいなって思います。
次は、風が通り過ぎたあとの静けさか、
あるいは、風を見送る誰かの背中かもしれません。
風の章、まだまだ続きます。
また、次の火で。




