ep.151 耳が風を聴く
町の北端、風の通り道にある小さな祠。
その前に、白い耳がふわりと揺れていた。
「やっほ~、火の人たち~。風、聴きにきたの?」
うさちぁんが、くるりと振り返って笑った。
耳が、風に合わせてぴょこぴょこと揺れている。
「……君が、うさちぁん?」
「うん。風の音、聴いてるの~。
今日はね、ちょっとだけ“昔のありがとう”が混じってるよ」
孝平は、思わず足を止めた。
風が、確かにそこにある。
けれど、目には見えない。
ただ、うさちぁんの耳だけが、それを捉えていた。
「風って、音があるのか?」
「あるよ~。
誰かが誰かを思い出すとき、
風はくすぐったそうに笑うの。
それが“しゃらん”って音になるの」
うさちぁんは、祠の奥に目を向けた。
そこには、団子の串が三本、そっと供えられていた。
「咲姫ちゃんの団子、今日もいい香り~。
風、喜んでるよ~」
孝平は、石板を開いて記した。
『風の火・五
耳が風を聴く。
“ありがとう”の残響が、風に混じっていた。
しゃらん、しゃらん。風は、笑っていた。』
ミミルが、うさちぁんの耳をじっと見つめる。
「……それ、どうやって動いてるの?」
「風がくすぐると、勝手にぴょこぴょこするの~。
だから、風が来たらすぐわかるよ!」
うさちぁんは、耳を揺らしながらくすくす笑った。
「風ってね、忘れられた想いを、ちゃんと覚えてるの。
だから、火の人たちの記録も、きっと風に届くよ~」
孝平は、そっと祠に手を合わせた。
風が、耳元をかすめていく。
それは、確かに“しゃらん”と鳴った気がした。
“風の火”五つ目は、うさちぁんの耳の揺れ。
風を“聴く”って、どういうことだろう?
そんな問いに、うさちぁんは笑って答えてくれました。
風は、誰かの“ありがとう”や“思い出したい気持ち”を、
ちゃんと覚えていて、ちゃんと届けてくれる。
その音を聴ける耳があるなら、
火の記録も、風の中で生きていける気がします。
次は、風の宴の名残か、
それとも、まだ誰にも拾われていない札かもしれません。
風の章、まだまだ続きます。
また、次の火で。




