Spks.07:格上げの二つ名と、崩れる壁なのです
三つの光が、砂漠の熱を吸って怪しく明滅する。
光はただの光ではなく、概念そのものの“塊”であり、触れれば人格の輪郭すら書き換えられそうな圧を放っていた。
うさちぁんは、酒樽に積んだ「おうごん(プラチナ)」の重みに腰をさすりながら、今度は慎重に光を見つめていた。
「……うさちぁん。言っておくですが、また『おうごん』を選んだら、今度こそこの拠点が自重で崩壊するのです」
咲姫が、釘を刺すように銀スプーンを向ける。
そのスプーンの影が、砂の上で勝手に“警告文”の形に変わった。
新平も必死に頷く。
「そうです!これ以上プラチナを増やしたら、床下の概念構造が持ちません!ここは『二つ名』を選んで、キャラとしての格を上げるべきです!」
「えぇ~?でもぉ、この文鎮もキラキラしてて……あ、でも『概念を呑む者』って、なんだか強そうよぅ~!これにするよぅ~!」
うさちぁんが【二つ名】の光に触れた。
その瞬間。
ドォォォォォォ……ッ!!
雷鳴のような音が響き、うさちぁんの体が淡い光に包まれる。
光は彼女の背後に集まり、巨大な「酒樽の影」が実体化した。
その影は、砂漠の空を半分ほど覆い尽くし、影の内部には“底の見えない液体”が揺れていた。
「……ふん。格を得たか。だが、格とは『境界』を壊す力でもあるよぅ~」
酒フィンクスが意味深に呟いた直後。
パリ……ッ。
乾いた音がした。
「……?何なのですか、この音は」
咲姫が振り向くと、そこにあったはずの「青い空(砂漠の空)」に、巨大なひび割れが入っていた。
ひびの隙間から見えたのは――
砂漠ではなく、拠点のキッチンの煤けた換気扇だった。
「ひ、ひびが入ってます!砂漠の世界が剥がれ始めてますよ!」
新平が絶叫する。
うさちぁんが「二つ名」を得て、存在としての概念密度が上がりすぎたせいで、偽物の砂漠(部屋の変異体)が彼女の存在感に耐えきれず、裏側の「現実」を露呈し始めたのだ。
「ルール違反なのです!景色が混ざって、視覚的に非常に気持ち悪いのです!」
咲姫が怒るが、事態は止まらない。
足元からは砂が溢れ出し、頭上からは「部屋のシーリングライト」が砂漠の太陽を突き破って現れる。
壁の一部は砂漠の石壁に、別の部分は拠点の白いクロスに戻り、その境界はぐにゃりと溶けていた。
「……余白が、漏れ出しているよぅ~。ピラミッドの最深部が、お前たちの『日常』と混ざり合おうとしているよぅ~」
酒フィンクスの体が、砂となって崩れながら風に溶けていく。
「急ぐがいいよぅ~。次が、最後の試練よぅ~……」
崩れゆく砂漠と、歪んだ部屋。二つの世界が混濁する中――
一行はついに、「王の間」へと続く、最後の階段を見つけた。
階段は砂でできているのに、踏むと“フローリングの音”がする。
世界が壊れ始めていた。




