ep.150 焦げ目の火
庁舎の裏手、小さな中庭に、香ばしい匂いが漂っていた。
炭火の上で、焼きおにぎりがじゅう、と音を立てている。
「おつかれさま~! ちょうど焼けたとこだよ~!」
柚が、竹の皮に包まれたおにぎりを差し出してくる。
表面には、こんがりとした焦げ目。
中からは、とろりとチーズがのぞいていた。
「……うまっ」
ひと口かじったミミルが、思わず声を漏らす。
「でしょ? 工房ギルドの千さんが作ってくれたの。
“力仕事の味”ってやつ!」
柚は得意げに笑い、次々とおにぎりを焼き上げていく。
孝平は、手にしたおにぎりの焦げ目を見つめた。
炭の香りと、米の甘さが、じんわりと広がっていく。
「……焦げ目って、火の記録みたいだな」
ぽつりとつぶやく。
「え?」
ミミルが首をかしげる。
「火がどんなふうに当たったか、ちゃんと残ってる。
焦げ目って、火の“かたち”そのものだよ」
孝平は、石板を開いて記した。
『風の火・四
焼きおにぎりの焦げ目。
火のぬくもりが、風に包まれていた。
焦げ目は、火の記憶。』
柚が、焼き台の火を見つめながら言った。
「この町ね、火を囲むと、風が集まってくるの。
たぶん、火と風って、仲良しなんだよ」
孝平は、うなずいた。
「だから、記録も続けられるんだな。
火の記録が、風に届くように」
焼きおにぎりの香りが、風に乗って広がっていく。
それは、町の奥のほうまで、そっと届いていた。
“風の火”四つ目は、焼きおにぎりの焦げ目。
火の記録って、言葉だけじゃなくて、
こういう“焼き跡”にもちゃんと残ってるんだなって思いました。
焦げ目は、火がそこにいた証。
そして、誰かが誰かのために手を動かした証でもある。
風は、それを拾って、運んでいく。
だから、焦げ目もまた、風の火。
次は、うさちぁんの耳の揺れか、
それとも、誰かが言えなかった“ありがとう”かもしれません。
風の章、まだまだ続きます。
また、次の火で。




