ep.148 塩の香りと札の重み
“風の火”二つ目は、塩パンと札の重み。
誰かが誰かのために焼いたパン、
誰かが誰かのために貼った札。
それらが、風に乗って届いていく。
記録って、数字や出来事だけじゃなくて、
「誰かの気持ちが、どんなふうにそこにあったか」を残すものなんだなと、
書きながら改めて思いました。
次は、香草茶の湯気か、焼きおにぎりの焦げ目か。
あるいは、風の耳を持つ誰かの足音かもしれません。
風の章、まだまだ続きます。
また、次の火で。
ギルド庁舎の掲示板は、朝の光を受けてきらりと光っていた。
木製の枠に並ぶ札は、どれも新しく、整っている。
昨日、ラディたちが貼り替えたばかりのものだ。
孝平は、その前に立ち止まり、
一枚の札に目を留めた。
『祝・402の風通し。
風は今日も、誰かの想いを運びました。
次の宴も、風まかせ。』
「……これが、“風の札”か」
ミミルが、隣でそっとつぶやく。
「依頼じゃないのに、ちゃんと掲示されてるんだね」
「うん。たぶん、これは“記録”じゃなくて、“贈り物”なんだと思う」
孝平は、札の端に指を添えた。
紙の感触はやわらかく、けれど、どこか重みがあった。
そのとき、庁舎の奥から、ふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。
「……塩パン?」
ミミルが鼻をひくつかせる。
香の焼いた塩パンが、かごに山盛りになって運ばれてくる。
「風の味、ってこういうことかもね」
孝平は笑って、札の裏にそっと書き加えた。
『風の火・二
塩の香りと、札の重み。
誰かの“ありがとう”が、
今日も、町をめぐっている。』
ミミルが、塩パンをひとつ手に取って、かじる。
「……うん、しょっぱいけど、あったかい」
「風って、そういう味なんだな」
孝平は、石板に記録を写しながら、
掲示板の札をもう一度見つめた。
「この町の風は、ちゃんと残ってる。
火の記録も、風の記憶も、同じように」




