ep.147 はじまりの風
朝の光が、祠の屋根を撫でていた。
孝平は、火の輪の記録を収めた石板を抱え、
静かに、風の通り道を歩いていた。
「……ここが、“風の宴”の町か」
ミミルが、足元の落ち葉を踏みしめながら言った。
「なんだか、空気がやわらかいね。火の町とは、ぜんぜん違う」
「風が、通ったあとなんだろうな」
孝平は、祠の前に立ち止まり、
そっと地面に落ちていた串を拾い上げた。
「団子の……串?」
「まだ、あたたかいよ」
ミミルが目を丸くする。
孝平は、石板の余白に記した。
『風の火・一
団子の香り。
誰かが誰かを思い出した朝。
風は、記憶を運ぶ。』
そのとき、祠の奥から、
鈴のような音が、かすかに響いた。
「……風が、歓迎してくれてるのかもね」
ミミルが微笑む。
孝平は、空を見上げた。
風が、木々の間をくるくると踊っていた。
「よし、記録を始めよう。
風の章、第一の火——“団子の香り”からだ」
ここから第二章、「風の章」が始まります。
第一章「火の章」は、灯すこと、記録すること、
そして“名を持たぬ火”に形を与えることがテーマでした。
第二章では、その火が風に乗って、
誰かのもとへ届いていく物語になります。
舞台は、『ひげがゆれるとき』の町。
咲姫たちが団子を供え、うさちぁんが風を聴いていた、あの場所です。
彼女たちの宴が終わったあと、
その余韻を受け取るように、孝平たちが町を訪れます。
火の記録者が、風の記憶を拾いに来る。
そんな巡礼のような旅が、ここから始まります。
風は、誰のものでもないけれど、
誰かの“ありがとう”を、ちゃんと覚えている。
そんな風の通り道を、
一歩ずつ、歩いていけたらと思います。
次の火は、たぶん——
塩パンの香りか、香草茶の湯気か。
あるいは、うさちぁんの耳の揺れかもしれません。
風まかせで、いきましょう。
第二章、よろしくお願いします。




