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ep.146 火と風の交差点
町の北端、風の通り道に、
ひとつの影が立っていた。
孝平は、火の輪の記録を収めた石板を胸に抱え、
静かに、祠の前にひざをついた。
「……ここが、風の宴の跡地か」
団子の香りは、もう消えていた。
けれど、地面には、三本の串がそっと残されていた。
ミミルが、そっと拾い上げる。
「これ……まだ、あたたかい」
「風は、誰かの“ありがとう”を運ぶって、聞いたことがある」
孝平は、串を見つめながらつぶやいた。
「だったら、俺たちの“ありがとう”も、ここに置いていこう」
彼は、石板の余白に、そっと記した。
『風の火——
名もなき宴のあとに、団子の香りが残っていた。
風は、記録を求めていた。』
そのとき、祠の奥から、かすかな音がした。
鈴のような、風のような、祈りのような——
孝平は、そっと目を閉じた。
「風の章、始めようか」




