ep.140 外の風、名を持たぬ者たち
町の外れに、風が吹いた。
孝平とミミルがたどり着いたとき、
そこには、三人の影が立っていた。
ひとりは、長い外套をまとった青年。
ひとりは、背の低い少女。
もうひとりは、顔を隠した旅人。
「……こんにちは」
青年が、静かに口を開いた。
その声には、どこか疲れと、かすかな希望が混じっていた。
「ここは、“名を持つ町”ですか?」
孝平は、うなずいた。
「エルシンポリアへようこそ。
名を持たぬ者も、名を探す者も、受け入れる町です」
青年は、ほっと息をついた。
「よかった……。
俺たち、ずっと“名のない道”を歩いてきたんです。
どこへ行っても、名を持たない者は、門を閉ざされて……」
少女が、孝平の火壺を見つめた。
「それ、火……?」
「うん。町の中心にある“火の輪”から分けてもらった火。
この町の灯りだよ」
少女は、そっと目を細めた。
「……あったかい」
旅人が、ようやく口を開いた。
「名を持たぬ者が、名を得るには、
何を差し出せばいい?」
孝平は、少しだけ考えてから、答えた。
「差し出すんじゃない。
歩いて、見つけるんだ。
この町で、火を守って、誰かと話して、
自分の火を見つけたとき――
そのとき、名は自然と灯る」
青年が、目を見開いた。
「……そんな場所が、本当にあるんですね」
「あるよ。
俺たちが、そうやって作ったから」
孝平は、火壺を掲げた。
その火が、三人の顔をやさしく照らす。
「ようこそ、エルシンポリアへ。
ここは、名を探す者の町。
火を灯す者の町だ」
風が、ふわりと吹いた。
火が揺れ、三人の影が、町の中へと一歩踏み出した。
夜の章、第一の来訪者。
“名を持たぬ者たち”が、エルシンポリアにやってきました。
孝平がかつてそうであったように、
彼らもまた、“名のない旅”を続けてきた者たち。
この町で、彼らが何を見つけ、何を選ぶのか。
そして、町そのものがどう変わっていくのか。
Von Voyage――名を持たぬ風が、町に吹き込む夜に。




