ep.139 夜の章・序 影のほとり
ep.139 夜の章・序 影のほとり
火の輪に名が宿ってから、三日が経った。
エルシンポリア。
それは、まだ地図にない町。
けれど、確かに“ここにある”と、誰もが感じていた。
「……静かだね」
ミミルが、火壺のそばでつぶやいた。
朝の光が差し込む中、町の中心には、
孝平が名づけた火の輪が、静かに灯っている。
「静かすぎるくらいだな」
孝平は、火の輪を見上げながら答えた。
「でも、悪くないよ。
こういう時間が、いちばん火が育つ気がする」
「うん。……でも、なんか、変な風が混じってる」
ミミルが、ふと眉をひそめた。
「風?」
「うん。昨日までは、もっと澄んでた。
でも今日は、ちょっと……ざわざわしてる」
孝平は、風の流れに意識を向けた。
確かに、どこか遠くから、
{“誰かの気配”が混じって}いる。
「……誰かが、来る」
そのとき、火の輪がかすかに揺れた。
まるで、何かを警告するように。
「カイは?」
「まだ戻ってない。
“外の風を見てくる”って言って、昨日の夜に出てったまま」
孝平は、火壺を手に立ち上がった。
「じゃあ、俺たちで迎えよう。
この町に、最初に来る“外の風”を」
ミミルもうなずき、ふたりは火の輪を背に、
町の外れへと歩き出した。
その先に、
{夜の章の扉が、静かに開かれていた。}
夜の章、開幕です。
“名を得た町”エルシンポリアに、
初めての“外の風”が訪れようとしています。
光を灯したその先に、
どんな影が待っているのか。
そして、孝平たちはその影とどう向き合うのか。
Von Voyage――影のほとりにて、火を抱いて待つ。




