ep.131 第二の扉、ミミルの空白
名の回廊を進む火の輪の面々。
さきほどの雪の記憶が、まだ空気に残っているようだった。
「……あれ?」
ミミルが、ふと立ち止まる。
「どうした?」
ヒメルが振り返る。
「なんか、ここ……くすぐったい感じする~」
その瞬間、
壁のひとつが、ふわりと光を帯びた。
「ミミルの番か」
孝平がにやりと笑う。
「うぇっ、わたし!? え、えええ~……」
「行ってこい。
きっと、風が遊びたがってるぞ」
カイが火壺を抱えたまま、ぼそりと呟く。
ミミルが扉に触れると、
目の前の空間が、ふわりと反転した。
気づけば、そこは――
おもちゃのような町並みだった。
家は小さく、空はやわらかく、
風が、笑い声のように吹いていた。
「……ここ、知ってる気がする」
ミミルは、町の中を歩き出す。
けれど、誰もいない。
声はするのに、姿がない。
「ねえ、だれかいるの~?」
返事はない。
ただ、風がくすくすと笑うだけ。
広場の真ん中に、
空っぽのブランコが揺れていた。
ミミルは、そっとその前に立つ。
「……ここで、誰かと遊んだ気がする」
でも、思い出せない。
名前も、顔も、声も。
「……わたし、忘れちゃったのかな」
風が、そっとミミルの髪をなでた。
「ううん、忘れたんじゃないよ」
「まだ、思い出してないだけ」
気づけば、ミミルの手のひらに、
小さな風車が握られていた。
それは、記憶の中から現れた、
彼女の“名のかけら”だった。
「おかえり」
ヒメルが、回廊の入り口で待っていた。
「……ただいま~」
ミミルが、少しだけ照れたように笑う。
「なんかね、風と遊んできた気がする~」
「それでいい」
孝平がうなずく。
「火の輪は、そういう旅だ」
名の回廊、第二の扉はミミルの記憶。
おもちゃの町、空っぽのブランコ、
そして、誰かと遊んだ記憶の“気配”。
彼女の明るさの奥にある、
“まだ思い出していない時間”が、
そっと風に揺れていました。
次回からは昼の章(4話構成)。
風の塔の中で、記憶と名のかけらをめぐる旅が、
さらに深まっていきます。
Von Voyage――風と遊んだ記憶の町で。




