ep.127 夢の岸辺、風の塔のふもとで
夜の海を抜け、
火の輪の舟は、静かに塔のふもとへとたどり着いた。
塔の根元は、海に浮かぶ小さな入り江になっていて、
白い砂と風花が、月明かりに照らされていた。
「……ここが、風の塔のふもと」
ルアが、そっと舟を降りる。
「静かだな」
孝平が、足元の砂を踏みしめる。
「風の国では、夜の塔は“夢の岸辺”と呼ばれています」
モントが、塔を見上げながら言った。
「ここでは、風が記憶を見せる。
夢のように、でも確かに」
火の輪の面々は、それぞれの場所で夜を過ごしていた。
ミミルは、砂の上で寝転がりながら、
風花を頭に乗せて、くすくす笑っていた。
「なんかね~、昔のこと思い出しちゃうの。
まだ、火の輪じゃなかったころのこと~」
「……そんなに昔じゃないだろ」
ヒメルが隣で火を見つめている。
「でも、なんか夢みたいでしょ?
今ここにいるのが、ちょっと不思議~」
トモエは、火壺のそばで目を閉じていた。
風が、彼女の髪をやさしく揺らす。
「……あの子の声が、聞こえた気がした」
「“まだ、ここにいるよ”って」
誰に言うでもなく、
ただ、風に向かってつぶやく。
ソレイユは、塔の根元に立っていた。
胸の“名前の種”が、静かに光を放っている。
「……ここに来たことがある気がする」
塔の石壁に、手を当てる。
その瞬間、風がふわりと吹き抜けた。
「ソレイユ」
誰かの声が、風に混じって聞こえた。
「……!」
振り返っても、誰もいない。
でも、確かに聞こえた。
「わたしの名前を……呼んだ?」
夜の風が、塔を包む。
その音は、まるで誰かの記憶のささやきのようだった。
火の輪の面々は、
それぞれの“夢の岸辺”で、
静かに夜を過ごしていた。
風の塔のふもとで過ごす、夢のような夜。
それぞれの記憶が、風に揺れて浮かび上がる時間でした。
ソレイユの“名前の種”が、
ついに光を放ち始めました。
次回は、夜の章の締めくくり。
塔の扉が、静かに開きます。
Von Voyage――夢の岸辺にて、風を聴く。




