ep.124 風の分かれ道
風の塔が、はっきりと見えてきた。
けれど、そこに至る風は――
まるで、二手に分かれていた。
「……風が、割れてる」
ルアが、地図を見つめながらつぶやく。
「どういうことだ?」
孝平がのぞきこむ。
「風の流れが、二方向に分かれてます。
一方は、穏やかで遠回り。
もう一方は、速いけど、不安定」
「つまり、安全だけど時間がかかる道と、
危険だけど早く着く道ってことか」
カイが腕を組む。
「わたしは、早いほうがいいと思う~」
ミミルが手を挙げる。
「だって、風の塔、早く見たいもん!」
「でも、舟が壊れたら元も子もないわ」
ヒメルがすぐに返す。
「安全な道を選ぶべきよ。
火の壺を守るのが最優先」
「……どっちが正しいとかじゃない」
トモエが火壺のそばでつぶやく。
「どっちの風に、火の輪が“合うか”だよ」
「ソレイユは、どう思う?」
孝平がそっと尋ねる。
ソレイユは、胸の“名前の種”に手を当てたまま、
しばらく黙っていた。
「……早い風のほうが、呼んでる気がする」
「呼んでる?」
「うん。
あの風の中に、誰かの声が混じってる。
……たぶん、“あの影”の続き」
舟の上に、静かな風が吹いた。
誰も、すぐには言葉を返さなかった。
けれど、やがて孝平がうなずいた。
「なら、行こう。
火の輪は、“呼ばれたほう”へ進む」
「了解」
モントが舵を握り直す。
「風の分かれ道、速き方へ。
火の輪、進路を再設定します」
舟が、風のうねりに向かって進み始めた。
帆が大きく揺れ、波が跳ねる。
火の輪の舟は、
風の塔へ向かう“迷いの道”へと、舵を切った。
風の分かれ道。
これは、風の国が火の輪に差し出した、
最初の“選択の試練”でした。
安全か、呼び声か。
火の輪が選んだのは、“声のあるほう”。
ソレイユの感覚が、少しずつ鋭くなってきています。
彼女の“名前の種”が、風の中で育ち始めている証かもしれません。
次回は、風の乱れの中での連携と、
火の輪の“火”が試される場面です。
Von Voyage――風の声に導かれて。




