ep.122 風の塔へ、帆を張れ
浮島を離れてすぐ、
風が変わった。
「……向かい風だな」
孝平が、帆の揺れを見上げる。
「風の塔は、あの雲の向こうです」
ルアが指差す先には、
うっすらと白い柱のようなものが見えていた。
「見えてるのに、進めないってやつか」
カイが火壺を抱えたまま、舟の中央に腰を下ろす。
「風の国では、“近くに見えるほど遠い”って言います」
モントが舵を握りながら言った。
「風が試してるんだよ」
トモエが笑う。
「本気で行きたいのか、って」
「じゃあ、どうするの?」
ミミルが首をかしげる。
「風に逆らって漕ぐの~? 腕もげちゃうよ~」
「帆を張り直す」
ルアが、すでに動き出していた。
「風を斜めに受けて、進路をずらしながら近づく。
“風の塔航法”って呼ばれてます」
「それ、できるの?」
孝平が聞く。
「できます。……火の輪なら」
帆を張る。
ロープを引く。
舵を切る。
火の輪の面々が、
それぞれの持ち場で動き始める。
ミミルは帆の端に飛び乗り、
ヒメルは風の流れを読み、
トモエは火壺の熱を調整し、
ソレイユは、風の音に耳を澄ませる。
「よし、いける」
孝平が、風を背に立ち上がる。
「火の輪、進路、風の塔へ!」
舟が、斜めに風を切って進み始めた。
風はまだ強い。
でも、火の輪の動きは、確かにひとつになっていた。
風の塔が、ついに視界に入りました。
でも、そこへ向かうには、
“風の試練”を越えていく必要があります。
今回はその第一歩。
火の輪の面々が、自然と連携し始めたことが、
とても大きな変化でした。
次回は、風の中に現れる“もうひとつの舟”。
火の輪の進路に、思わぬ出会いが待っています。
Von Voyage――風を斜めに切って。




