ep.119 風まかせの寄り道
「……あれ、なんか見える」
ミミルが舟の先端で、目を細めた。
「島か?」
孝平が立ち上がる。
「いや、あれは……浮いてる?」
トモエが眉をひそめる。
海の向こうに、
ぽっかりと浮かぶ小さな島のようなものがあった。
でも、よく見ると――
「……あれ、空に浮かんでるぞ」
カイがぽつりと呟いた。
「風の浮島です」
ルアが地図をめくる。
「風の国の周辺には、
風に乗って漂う“浮島”が点在しています。
中には、風の記憶が宿る場所もあるとか」
「寄ってみる?」
孝平がみんなを見渡す。
「賛成~! ちょっと休憩したい~!」
ミミルが両手を挙げる。
「……まあ、補給も必要だしね」
トモエが笑った。
「風の塔に向かう前に、情報を集めるのも悪くない」
モントがうなずく。
舟は、風に導かれるように浮島へと近づいていく。
近づくにつれ、島の上に咲く風花が、
ふわりふわりと舞い始めた。
「……きれい」
ソレイユが、思わず声を漏らす。
「この花、風の国の象徴です」
ルアがそっと手を伸ばす。
「風の記憶を吸って、咲くんです。
だから、ひとつひとつ、違う香りがする」
「じゃあ、これ……」
孝平が花を手に取る。
「誰かの記憶、ってことか」
「うん。……たぶん、誰かの“旅の途中”」
火の輪の面々は、浮島に降り立ち、
それぞれの場所で風を感じていた。
ミミルは花を集め、
ヒメルは風の音を記録し、
カイは火壺の火を整え、
ソレイユは、そっと風に耳を澄ませていた。
舟の旅は続く。
でも、こういう寄り道が、
きっと“旅そのもの”を豊かにしていく。
火の輪、ちょっと寄り道。
風の浮島でのひとときは、
旅の緊張をほぐす、やさしい時間でした。
風花という存在が、
この世界の“記憶の咲き方”を教えてくれた気がします。
次回は、浮島で拾った“風のかけら”が、
思わぬかたちで火の輪に語りかけてきます。
Von Voyage――風の記憶に咲く花を。




