ep.118 風の導き、光の粒
朝日が、ようやく海を照らし始めた。
舟の上に残された、小さな光の粒が、
ゆらゆらと浮かんでいた。
「……これ、なに?」
ミミルが指先でつつこうとして、
ヒメルに止められる。
「触っちゃダメ。まだ、安定してない」
「でも、きれい~。
なんか、あったかいよ?」
「……あれは、影の記憶のかけらかもしれません」
ルアがそっと近づく。
「風の国では、名前を失った者が、
記憶の光を残すことがあると聞きます」
「記憶の光……」
孝平がつぶやく。
ソレイユが、そっと手を伸ばす。
光の粒が、彼女の手のひらにふわりと乗った。
その瞬間、
胸の“名前の種”が、また少しだけ熱を帯びた。
「……なにか、見えた」
ソレイユが目を細める。
「白い風。
それから、……塔?」
「塔?」
モントが反応する。
「風の国の中心には、“風の塔”があるとされます」
「風の名を記す、記憶の塔です」
「じゃあ、そこに行けば……」
孝平が言いかける。
「名前を、取り戻せるかもしれない」
ソレイユが、静かに言った。
舟の帆が、ふわりとふくらむ。
風が、また新しい流れを運んできた。
「進もう」
孝平が立ち上がる。
「風が、道を示してくれてる」
火の輪の舟は、
光の粒を胸に、風の塔を目指して進み始めた。
影が残した“光の粒”は、
ただの余韻ではなく、次の道しるべでした。
ソレイユの中に芽生えた“名前の種”も、
少しずつ、確かに育っています。
風の塔――
それは、風の国の中心であり、
名前と記憶の交差点。
次回は、風の塔を目指す航路での、
ちょっとした“寄り道”と、火の輪の笑い声。
Von Voyage――風の塔のほうへ。




