ep.114 星の風
夜が来た。
海は黒く、空は深く、風は静かだった。
舟の上に、火の輪の面々がぽつぽつと座っている。
焚き火の代わりに、火壺の灯りが舟を照らしていた。
「……星、きれいだな」
孝平が空を見上げる。
「風が落ち着いてる証拠です」
ルアが、星図を手に言った。
「このあたり、星の風が通るんです。
風が星の光を運んでくる、って言われてます」
「風が、光を?」
「ええ。風の国では、星の風は“記憶を照らす光”とも呼ばれています」
「……詩人かよ」
カイが火壺を抱えたまま、ぼそりと呟く。
「でも、ちょっとわかるかも~」
ミミルが舟のへりに寝転がって、星を見ていた。
「なんかね、星って、
“あのときの気持ち”を思い出させてくれるの~」
「それは、風じゃなくてミミルの記憶でしょ」
ヒメルが笑う。
「でも、風がそれを運んできたのかもよ~?」
「……それも、ありかもね」
トモエが、火壺のそばで何かを炙っていた。
「干し野菜、あっためてるだけだよ。
夜の海は冷えるからねぇ」
「……いい匂い」
ソレイユが、そっと火に手を伸ばす。
「こわいの、ちょっとだけ、ましになった」
「火は、そういうもんさ」
トモエが笑った。
舟は、星の風に包まれながら、
静かに、静かに、夜の海を進んでいく。
夜の海は、静かで、深くて、
でもどこか、あたたかい。
火の輪の面々が、
それぞれの場所で、星を見上げる時間。
「星の風」という言葉が、
この世界の風の奥行きを少しだけ広げてくれました。
次回は、夜明け前の揺れ。
風が、また少し、ざわつきます。
Von Voyage――星の風の下で。




