ep.111 風の揺れ、海のゆらぎ
舟が岸を離れた瞬間、
海は思ったよりも静かだった。
波は穏やかで、風もやさしい。
朝の光が水面に反射して、火の輪の舟を金色に染めていた。
「……思ったより、順調だな」
孝平がつぶやくと、モントが首を振った。
「今は、です」
「風は、気まぐれですから」
ルアが地図を広げ、風の流れを確認している。
その横で、ミミルが帆の端にぶら下がっていた。
「ねえねえ、風ってどこから来るの~?」
「北東です。今は穏やかですが、午後には変わるかもしれません」
ルアが答える。
「じゃあ、風の国って、どこにあるの?」
「……風の向こうです」
モントがぽつりと言った。
「ふわっとしてるな」
カイが火壺を抱えたまま、舟の中央に腰を下ろす。
「風の国は、地図には載っていませんから」
ルアが静かに言う。
「風の流れが変わるたび、場所も変わる。
だから、“風の国”と呼ばれるんです」
「……風の国って、風の名前を忘れた人がいるんでしょ?」
ミミルがぽつりと呟いた。
「うさちぁんが言ってたの~」
孝平が少しだけ目を細めた。
「……そうか。じゃあ、行って確かめよう」
舟が、ゆっくりと風に乗って進んでいく。
火の輪の面々は、それぞれの持ち場につき、
静かに、でも確かに、旅の始まりを感じていた。
火の輪の舟が、海へと出ました。
風は穏やか。でも、それがずっと続くとは限らない。
「風の国は、風の向こう」
この言葉が、じわじわと効いてきます。
そして、ミミルの口からふとこぼれた「うさちぁんの言葉」。
彼女の風は、まだ火の輪のそばにあるのかもしれません。
次回は、風の乱れと、最初の試練。
火の輪の連携が、試されます。
Von Voyage――また、海の上で。




