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クラフトアルケミストの異世界素材録 〜スローライフから始まる概念破壊の銀河群像劇〜  作者: 島田一平(ねこちぁん)
水の章

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ep.106 風の国からの使い

夜の火の輪は、昼よりも静かだった。

焚き火の赤は深く、風鈴の音はほとんど鳴らない。

まるで、風そのものが息を潜めているようだった。


孝平は、火のそばに座るカイを見ていた。

彼は火壺を抱えたまま、風の流れを探るように目を閉じている。


「……まだ、呼んでるか?」


孝平が問うと、カイはゆっくりと目を開いた。


「呼んでる。

 でも……“来るな”じゃない」


「じゃあ、今は?」


カイは、焚き火の揺れを見つめた。


「“来る”……だ」


その瞬間、風鈴が鋭く鳴った。


ちりん――。


火の輪の空気が、わずかに震えた。



波留が海辺から駆けてきた。


「孝平! 海の向こうに……影がある!」


「舟か?」


「いや……舟じゃない。

 “歩いてる”」


孝平は眉をひそめた。


「歩いてる……?」


波留は息を整えながら続けた。


「海の上を、だ」


ミミルが目を丸くする。


「海の上を~!? そんなの、できないよ~!」


「できる奴がいるんだよ」

カイが立ち上がる。

「風の国の“使い”だ」



火の輪の中央に、ざわめきが広がった。


ヒメルは荷袋を抱えたまま、風の匂いを嗅ぐ。


「……嫌な風じゃないけど、軽くもないわね」


トモエは鍋の蓋を閉じ、火から少し離れた。


「客ならいいが……敵じゃなきゃいいねぇ」


ルアは手帳を開き、淡々と記録を始める。


“風の国の使い、海上を歩き火の輪へ接近”


モントは風鈴を見上げた。


「風が……道を作っています。

 あれは、精霊の力です」


レーゲンは剣を置いたまま、静かに立ち上がった。


「剣は抜かない。

 だが……備える」


ガルドも同じように立ち、火の輪の外側へ視線を向けた。


「火の輪を守るのは、剣ではなく火だ。

 だが、立つことはできる」



ソレイユは、焚き火の前で膝を抱えたまま、

胸の“名前の種”を押さえていた。


「……風が、怖い音してる」


ネーベルが隣に座る。


「ええ。

 でも、火は静かです。

 だから、大丈夫ですよ」


ソレイユは、小さくうなずいた。


「……火が、守ってくれる?」


「もちろん」



やがて――

海の向こうから、ひとつの影が現れた。


白い外套。

長い杖。

風に揺れる銀の飾り。


その人物は、海の上を歩くようにして、

まっすぐ火の輪へ向かってくる。


カイが息を呑んだ。


「……あれは、“風導師”だ」


孝平は、焚き火の前に立った。


「風導師……?」


「風の国で、精霊と直接話せる者。

 国が乱れた時、最初に動くのはあいつらだ」


影が、砂の上に足をつけた。

風が、火の輪の中央へ向かって流れ込む。


そして――

フードを外した。


そこに立っていたのは、

鋭い瞳を持つ女性だった。


「……火の輪の者よ。

 風の国より、使いとして来た」


風鈴が、ちりん、と鳴った。


火の輪に、風の国の“声”が届いた瞬間だった。

今回は、ついに“風の国の使い”が火の輪に現れる回でした。


・海の上を歩く影

・風鈴の乱れ

・精霊の道

・風導師という存在

・火の輪の面々の反応


火の輪の静かな暮らしの中に、

本格的に“外の国の問題”が入り込んできます。


次回 ep.107 では、

風導師が火の輪に来た理由、

そして“風の国で何が起きているのか”が語られます。


それじゃ、また火のそばで。

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