表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラフトアルケミストの異世界素材録 〜スローライフから始まる概念破壊の銀河群像劇〜  作者: 島田一平(ねこちぁん)
水の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/1057

ep.101 火の輪の暮らしと、風の気配

朝の光が高くなるにつれ、火の輪はいつもの静かな営みを取り戻していた。

焚き火の赤は弱まり、代わりに潮風の匂いが強くなる。


孝平は、火のそばで木の枝を削りながら、

少し離れた場所で立ち尽くすカイを見ていた。


「……落ち着かないか?」


声をかけると、カイはわずかに肩を揺らした。


「いや……ただ、こういう“静けさ”に慣れていないだけだ」


「風の国は、静かじゃないのか?」


「静かだった。

 ……昔は」


その言葉に、波留が海から戻りながら眉をひそめた。


「昔、か。

 今はどうなんだ?」


カイは答えず、海の向こうを見つめた。

風が、彼の外套を揺らす。



ミミルは、そんな空気を気にする様子もなく、

大きな籠を抱えて走ってきた。


「カイくん~! 手伝って~!

 これ、火の輪の“朝の仕事”なの~!」


「……朝の仕事?」


「そう~! 火の輪はね、

 “みんなで暮らす”のが掟なの~!」


ミミルは籠を差し出す。

中には、海藻、貝殻、流木、そして風に飛ばされた布切れまで入っていた。


「これ……何に使うんだ?」


「なんでも使うの~!

 火の輪はね、“使えるものは全部使う”の~!」


カイは思わず笑った。


「……雑だな」


「雑じゃないよ~!

 “暮らしの魔法”なの~!」


ミミルが胸を張ると、トモエが鍋をかき混ぜながら言った。


「そうさ。火の輪は、魔法より暮らしが強いんだよ」



ヒメルは、荷袋を広げながらカイに声をかけた。


「ねえ、あんた。風の国の布、持ってない?」


「……持ってない。

 全部、風に持っていかれた」


「そっか。

 じゃあ、火の輪の布をひとつあげるわ」


ヒメルは、淡い青の布を差し出した。


「これは、“ここにいていい”って意味の布よ」


カイは、しばらく布を見つめていた。


「……ありがとう」



少し離れた場所で、ルアとモントが風鈴を観察していた。


「風が……まだ落ち着きませんね」


「ええ。

 カイが来てから、風の流れが変わった」


ルアは手帳に書き込む。


“風の国の気配、火の輪に混ざる”


モントは、風鈴にそっと触れた。


「……でも、不思議と嫌な風ではありません」


「むしろ、何かを知らせようとしている風だ」


二人の視線の先で、風鈴が短く鳴った。



レーゲンは、剣を置いたまま火のそばに座っていた。

カイの動きを、静かに観察している。


「……あいつ、戦えるな」


ガルドがうなずく。


「だが、戦いたくて来たわけではない。

 “守りたいものを失った者の目”だ」


「火の輪で、少しは休めるといいがな」


「火が決めるだろう」



ソレイユは、焚き火の前で膝を抱えていた。

胸の“名前の種”が、またふわりと温かくなる。


「……カイの風、ちょっと悲しい音がする」


ネーベルが隣に座る。


「ええ。

 でも、火の輪の音と混ざれば、きっと変わりますよ」


「変わる……?」


「火は、風を温める。

 風は、火を運ぶ。

 その二つが混ざると……物語が動き出すんです」


ソレイユは、焚き火に手を伸ばした。


「……じゃあ、カイも……火の輪の仲間?」


「火が、そう言ってます」



孝平は、カイの隣に立った。


「火の輪の暮らし、どうだ?」


カイは、しばらく考えてから答えた。


「……悪くない。

 風の国には、もうなかった“静けさ”だ」


孝平は、焚き火を見つめた。


「ここは、戦う場所じゃない。

 でも……誰かを助ける火なら、灯せる」


カイは、ゆっくりとうなずいた。


「……なら、俺はここで学ぶ。

 風を鎮める火の使い方を」


風鈴が、ちりん、と鳴った。


火の輪に、ひとつの“決意”が溶け込んだ。

今回は、カイが火の輪の暮らしに触れ、

少しずつ“風の国の影”を語り始める回でした。


火の輪の静かな生活の中に、

カイの風が混ざり、

物語がゆっくりと“冒険”へ向かい始めています。


次回 ep.102 では、

カイが火の輪の火に触れ、

“風と火の魔法”の片鱗が見え始めます。


それじゃ、また火のそばで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ