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クラフトアルケミストの異世界素材録 〜スローライフから始まる概念破壊の銀河群像劇〜  作者: 島田一平(ねこちぁん)
水の章

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ep.100 風の国の影

朝の焚き火は、夜よりも静かに揺れていた。

火の輪の空気は穏やかだが、その中心に座るカイだけが、どこか落ち着かない影をまとっている。


孝平は、湯を注ぎながら声をかけた。


「眠れたか?」


「……ああ。火のそばなら、少しは」


カイは湯気を見つめたまま、言葉を探すように沈黙した。

その沈黙を破ったのは、ミミルの軽い足音だった。


「カイくん~、朝ごはんだよ~!

 火の輪雑煮、今日もおいしいよ~!」


トモエが鍋をかき混ぜながら笑う。


「食え。腹が減ってちゃ、風にも負ける」


「……風に、負けるか」


カイは椀を受け取り、ゆっくりと口に運んだ。

その表情が、ほんの少しだけ緩む。


「……うまい。

 こんな味、久しぶりだ」


「火の味だよ~」

ミミルが胸を張る。

「火の輪の火はね、“安心の味”なの~!」


カイはその言葉に、かすかに笑った。



少し離れた場所で、モントが風鈴を見上げていた。

風が、いつもより不規則に揺れている。


「……やはり、風が乱れている」


ルアが手帳を開きながら近づく。


「カイの話、事実だと考えていいのか?」


「精霊の乱れは、風鈴に出ます。

 火の輪の風は敏感ですから」


二人の視線の先で、風鈴がちりん、と短く鳴った。



レーゲンは、火のそばで剣を磨かずに座っていた。

その視線は、カイの背中に向けられている。


「……あいつ、戦ってきた目だな」


ガルドがうなずく。


「だが、戦うために来たわけではない。

 “逃げてきた者の目”だ」


「火の輪は、そういう奴をよく拾うな」


「火が呼ぶんだろう」


二人の会話は短いが、火の揺れと同じくらい確かな温度があった。



ソレイユは、焚き火の前で膝を抱えていた。

胸の“名前の種”が、またふわりと温かくなる。


「……あの人、風の音がついてる」


ネーベルが隣に座る。


「ええ。

 風の国の者は、皆どこかに“風の音”を持っています」


「……怖い音じゃない?」


「いいえ。

 ただ……疲れている音です」


ソレイユは、焚き火に手を伸ばした。


「じゃあ……火で、あっためられるかな」


「きっと」



孝平は、カイの隣に腰を下ろした。


「風の国で、何があった?」


カイは、しばらく火を見つめていた。

火の揺れが、彼の瞳に映る。


「……風が、暴れ始めた。

 精霊たちが、怒っている。

 理由はわからない。

 ただ……風の国は、もう持たない」


孝平は、静かに息を吐いた。


「だから火を探したのか」


「風を鎮めるには、火が必要だ。

 でも……火の国は閉ざされている。

 火を持つ者は、どこにもいないと思っていた」


カイは、焚き火に手をかざした。


「……ここに来るまでは」


火が、ふっと揺れた。

まるで答えるように。


孝平は、火の輪の中心を見つめた。


「カイ。

 火の輪は、戦う場所じゃない。

 でも……誰かを助ける火なら、きっと灯せる」


カイは、ゆっくりとうなずいた。


「……なら、俺は……ここで学ばせてほしい。

 風を鎮める火の使い方を」


風鈴が、ちりん、と鳴った。


火の輪に、ひとつの“決意”が落ちた瞬間だった。

今回は、カイが“風の国で何が起きているのか”を語る回でした。


・精霊の乱れ

・風の国の崩壊

・火を探していた理由

・火の輪の火が彼に反応する理由


火の輪の静かな暮らしの中に、

少しずつ“冒険の影”が差し込み始めています。


次回 ep.101 では、

カイが火の輪の暮らしに溶け込みながら、

“火の使い方”を学び始めます。


それじゃ、また火のそばで。

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