ep.99 風を連れてきた青年
朝の光が、火の輪の砂を淡く照らしていた。
焚き火はまだ赤く、昨夜の年越しの余韻を抱えたまま静かに揺れている。
孝平は、海辺に立つ青年――カイを見つめていた。
風が、彼の周りだけ少し違う流れを作っている。
「……ここが、火の輪か」
カイがつぶやくと、ミミルが横から顔を出した。
「そうだよ~! 火の輪はね、“休む場所”なの~」
「休む……か。そんな場所が、まだあったんだな」
その声には、疲れと、どこか諦めのような影が混ざっていた。
波留が、海水を払った桶を置きながら言う。
「舟は、ずいぶん傷んでた。
あれじゃ、よく沈まなかったな」
「沈んでもよかったさ。
……火を見つけられなかったら、の話だけど」
孝平は、焚き火の方へ歩きながら言った。
「火の輪の火は、誰かを呼ぶことがある。
お前は、その“呼ばれた側”なんだろう」
カイは、焚き火の前で立ち止まった。
火が、ふっと揺れる。
「……そうかもしれない。
俺は……“風の国”から来た」
その言葉に、モントが反応した。
風鈴の下で、ノートを抱えたまま近づいてくる。
「風の国……? 本当に?」
「本当だ。
あそこは今、風が乱れている。
精霊たちが……暴れている」
モントの瞳が揺れた。
「精霊が……暴走を?」
「止められる者がいなくなった。
だから俺は、火を探した。
風を鎮めるには……火が必要なんだ」
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
ルアが手帳を開きながら言う。
「“風の国、精霊の乱れ。
火を求める者、火の輪に漂着す”……記録しておこう」
ミニョンが、髪を整えながらため息をつく。
「また面倒ごとが来たわね……
でも、火の輪ってそういう場所なのかしら」
「そうだよ~」
ミミルが笑う。
「火の輪はね、“困ってる人が来る場所”なの~!」
カイは、焚き火に手をかざした。
火が、彼の指先に寄り添うように揺れる。
「……この火なら、風を鎮められるかもしれない」
孝平は、静かにうなずいた。
「なら、まずは休め。
火の輪では、何をするにも“休む”のが最初だ」
カイは、少しだけ目を細めた。
「……ああ。
休むなんて、久しぶりだ」
風鈴が、ちりん、と鳴った。
その音は、まるで――
“ここにいていい”と告げているようだった。
今回は、新来訪者カイの素性が少し明かされる回でした。
・風の国から来た青年
・精霊の乱れ
・火を探していた理由
・火の輪の火が彼に反応する理由
物語が、静かな暮らしから、少しずつ“冒険”へと踏み出し始めています。
次回 ep.100 では、
カイが火の輪の暮らしに触れ、
そして“風の国で何が起きているのか”がさらに深まります。
それじゃ、また火のそばで。




