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三、崖っ淵の館

 ある日の夜、崖の上にあるひとつの建物の明かりがついていた。その大きな館は入口まで続く険しい階段があり、その終わりにある門は五メートルほどの巨大な扉。

 月の光が通い路を淡く照らしていた。赤いカーペットは月光に当てられ、足元以外は闇のように暗い。その上を一人の執事が革靴でコツコツと歩く。黒いスーツを着ていて、髪と髭は白く老いているようだった。だがそれを裏切るように彼の背筋は伸びていて、顔立ちはまるで石で彫られた彫像のように整っていた。年齢を感じさせる皺はあるものの、そのひとつひとつが長年の鍛錬と忠誠を刻んだ勲章のようだった。手にランプを持ち、テンポを崩すことなく歩いていた。歩幅は一定に保たれており、表情も全く揺らがない。右手に持つランプ以外、完全にシンメトリーと思わせるような姿勢で歩いた。廊の終わりには重厚な扉がひとつ。

 彼は手袋をした手でそっとドアノブを握る。ゆっくりと開けると、部屋の中からは強い覇気が溢れ出てきた。

「何ぞ、グレイ」

 部屋に踏み入った途端、彼は中から女性の声に呼び掛けられた。

 彼は薄暗い私室に入り、音を立てないようにドアを閉めると主を向き、数秒間深くお辞儀をした。

「はっ、報告が入りました。」

 執事はゆっくり顔を上げると、主の顔を見て言った。

 目の先には大きな赤いソファー。そこに、椅子の肘掛けに片腕を投げ出す少女が背もたれにゆったりともたれ、脚を組んでいた。暖炉が彼女の顔の片側を照らし、透き通るように白い肌を露わにした。黒いドレスとのコントラストに顔立ちがとてもはっきりとしている。顔は小さく、ホクロひとつない。とんだ美女である。炎のように赤い目がしっかりと執事をとらえる。

「申せ」

 短く告げると、少女は足を組み換え執事を待った。

「つい先日、森に現れたそうです」

 執事はゆっくりと話し、主の反応を伺った。

 すると彼女は少し眉を上げ、肘掛けから腕を退いた。

「ほう?では、準備は進んでおるのか?」

「はい。あなた様の命令の元、順調に事を運んでいます」

 二人の会話が続くと、少女は歯を見せて突然笑い出した。

「そうか、それは面白い。任せたぞ、グレイ」

 命じられ、グレイという名の執事は再度お辞儀をし、彼女を残して部屋から出て行った。

 少女は立ち上がり、両腕を腰につけた。天井を見上げた。

「そうか、あやつの子と……」

 彼女は一歩一歩窓に近づいた。彼女の足音が暖炉で木の割れる音と重なる。彼女は暗い夜空を眺めてから視線を降ろし、遠くに灯される数々の明かりを目にした。彼女の瞳に写る光はどこか寂しさを感じられる。

次回、第四話 同郷の子

12/15 月曜日 16:00公開!

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