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十八、本荒らし

 図書館へ戻ると、僕はその大きな建物の外見をしっかりと眺めた。木の柱が石でできた壁に挟まれている。街の城壁にある門の大きさの扉に、小さな一人の人の大きさの扉が着いている。中から出入りする人はその小さな扉からで大きな門は動かない。

 フィーミェンを前に僕は図書館に入った。石タイルの床に読書用の長机が並んでいる。椅子には何人かが分厚い本をもって真剣に読み込んでいる。

 左右には二階に渡る階段が設けられており、本のしき詰まった棚が見える。 部屋の中には古い紙の匂いが漂い、なんだか落ち着く。

 真っ先に僕は入口の右手にある本棚へ行き、一冊手にとると本の表紙を見た。

 革のカバーに包まれた分厚い本はざっと五、六百ページだろうか。「植物の育て方」というタイトルの裏には図鑑のようなページが重なっている。

 まずはエルフの里について調べようと本を棚に戻し、一歩下がって棚を観察する。エルフの里に行こうと言ってもどういったところなのか、そもそもどこにあるか調べなければならない。フィーミェンはどこかの森としか答えられなかったし、それでも僕の起きた森ではなさそうだ。

 日本とは言語が違うため、あいうえお順に本が並んでいても僕にはこの言語のあいうえおが分からないのでそう簡単に本を見つけることはできない。「植物の育て方」の隣にあるのは「甘い味の秘密」という本。そして同じ棚にあるのは「若かったころの私」といった冒険譚。この中からエルフに関する本を探し当てるのは至難の業だ。僕は役に立てそうにない。

 そう思っていたのだが、僕はもう一度本棚を見た。色とりどりのブックカバーを見ていると、ある本が目に留まった。「長生きをする技術師」という本だった。長寿と言えばエルフ。何万もある本の中から、そして最初に確認した本棚でみつけた。宝くじを当てたような感覚になるのは当然のことだろう。

 僕は興奮を抑えながらその本を手に取り、ちょうど真ん中のページを開いた。しかし見開きに記載されていたものはエルフではなく、ドワーフについての文や図だった。ドワーフの金属技術、彼らの食文化、そんなものがしき詰まっている本だったともう少しページをめくってから悟った。

 僕は「長生きする技術師」を恥ずかしながらも本棚に押し入れ、フィーミェンが探している本棚まで寄った。ちょうど二階へつながる階段横に本棚があり、彼女はそれらの本をスキャンしていた。

「二階に行きましょう」

 小声で言うと彼女は僕を連れて上の階へと上がり、本の捜索を手伝わせた。もうどういったタイトルの物を探しているのか分からなくなってしまい、目に留まるものがないかと本棚を次から次へと眺めているだけだった。

「エルフの隠れ家!」

 目当ての本を見つけるとフィーミェンは小声で叫んで僕の注意を呼んだ。

 その一冊を本棚からとると、一階の中央の長机に座り、一ページ目を開いた。

 これは確かにエルフについての本だった。一ページ目にはエルフの歴史が語られ、どのようにしてエルフが今に至った経緯を図とともに記載されている。

「エルフ族が最初に誕生したのはおよそ700万年前のこと」

 僕はフィーミェンに読み上げた。

「エルフの誕生について幾つもの説があるが、人間から進化したというのが最も有力である。彼らは魔力の強いところに住んでいた人間が体内に魔力を取り込んだものとみられる。魔力に体を許した彼らは人間が通常たどり着けない年齢まで魔力の力で生きていた。現代のエルフは混血も多いため寿命は3千歳ほどであるのに対し、昔は5万歳近くまで生きられたと予想されている」

 僕はエルフの歴史に目を丸くしながら読み続けた。

「エルフは出産率が高く、人間に数でおされた。そのためエルフ族は400万年前から500万年前に北へ大移動したと考えられる。」

 北というキーワードを与えられ、僕はエルフの里の場所を求めて読み続けた。

 読んで読んで、次々とページを捲る。右の一番下にあった文。

「私はそのエルフの里の在処をこの目で見ようと探して50年、ようやく見つけることができた……」

 読んで次のページに捲る。しかしそこには地図が記載されていたと思われるページが上半分破かれていて、大陸の地図の北側だけが破り取られていた。その下にはただこれが探し求めていた地図だと言うことを記す文のみ。

「上の地図は私が見つけたエルフの里のものである」

 行き止まりだ。

 僕は先のページをみて他に手掛かりがないかと見たが、全てあの地図を再度記すものはなかった。

 やはり行き止まりだ。

「これじゃあエルフの里に行けない……」

「そうだな」

 僕が呟くとフィーミェンが返した。喉の調子が悪いのか少し低かった。

「エルフの里の場所を知っている人を探して案内してもらいましょうか」

 フィーミェンの声の調子が戻った。

「何なら俺が案内してやらんでもないぞ?」

「喉痛いの?」

 僕が聞くと、ふたりの声が同時に聞こえた。

「大丈夫です」

「いつも通りだぜ」

 僕は右を見た。フィーミェンが隣に座っている。

 僕は左を見た。隣には誰も座っていない。

 僕は後ろを見た。誰かが立っている。

 背の低い、髭の生えた男。室内なのに暑そうな毛皮のコートを着ていて、手袋までしている。

 顔は中年のおっさんだけれど僕より背が低いことに僕は少し嬉しかった。

「あの、どなたで?」

 尋ねると彼は少し待ってから答えた。

「ヴァンカス」

 バカンス。なぜか頭にそうインプットされてしまった。

「バカンスさん、エルフの里の場所を知ってるんですか?」

 僕が聞くと彼は嫌な顔をした。

「誰が旅行だよ。ヴァンカスだって」

 自動翻訳されるから日本語で似ていても、彼からしたら僕は全く別の言葉で彼を呼んだであろう。

「ヴァンカスさん」

「おう知ってるよ」

 そう言うとほかに何も伝えずについて来いとでも言う感じで机を後にした。僕らはしばらく彼の背中を見ていると、図書館の入り口に近づく彼を慌てて追いかけた。勿論追う前に本は元あった場所にきちんと戻しておいた。

「バカンス、じゃないヴァンカスさん、どうしてエルフの里を?」

「なあに、その本の野郎と一緒にエルフの里に言ったのはこの俺だよ」

「えっ?!」

 僕らおどろいて足を一度止めた。開かれた図書館のドアから外の風が入る。

「……死んじまったがな」

 お構いなしに彼は歩き続けて建物を出た。

 門のところには僕らが入った時にはいなかった人物が寄りかかっていた。その女性は胸と脛だけに鉄の装備を付けていて、見事な腹筋が見える。少量の防具と半ズボンのような服、ブレスレットに靴以外はほとんど何も身に着けていなく、背中を血にでも染めたかのような色の髪が覆う。頭にはその髪の間から突き出る両耳。

「シェルメギ、こいつらエルフの里に行きたいんだってよ」

 ヴァンカスという男はすぐに獣人の女に言った。

 獣人は隣の斧を手に取るとヴァンカスを鋭い目つきで見下した。

「真っ二つにするぞ?」

 とだけ言うと、僕らを見て斧を降ろした。

「私の時間を無駄にするつもりか。ヴァンカス」

 不満そうな顔をして男を睨んだ。

「まあそういうなって!お前の父親もそう望んでたんじゃあないか?」

「あいつの話をするな!」

 彼女は怒鳴った。

 町中の目が僕らについている気がする。フィーミェンも僕のように震えていて、互いに服を握り合った。

「頼むよ」

 ヴァンカスがそう言うと、シェルメギという女は僕らをもう一度見て頷いた。

 状況が分からないまま、僕らはふたりに連れられてギルドへ戻っていた。

「よし、じゃあ荷物をまとめて出発だな」

 ヴァンカスが僕らの背後から言う。

「え、今ですか?!」

 フィーミェンが驚きの声を上げるとヴァンカスは僕らを押し入れた。

「そうだ。あと一時間で出発したい。シェルメギのためだ」

 訳が分からないが、彼らは僕らをエルフの里まで連れて行ってくれると言ってくれたし、僕は自分の部屋に戻ると急いで旅の準備をした。

「ヨウくん何処いくのですか?」

 僕がカギをセリナさんに返すと彼女から質問された。

 僕はすぐに本当のことを言おうと、エルフの里に行くと伝えよう、そう思った。だが先に考えたようにセリナさん自身もエルフかもしれないと考察した今、彼女には言わないほうがいいと判断した。彼女には街を出て世界を回りたいと伝えた。

「世界を見に行ってみたいと思います。仲間と一緒に」

 これは嘘ではない、だからセーフだ。などと思いながら僕はカウンターを後にした。

 

 

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