十七、内緒内心の決断
「聞かせてもらおうか、グレイ」
グレイという名の執事が部屋に入ると同時に豪華なドレスを着た少女が言った。
執事は部屋の扉をまず閉めると、彼女のそばまで歩み寄ってからお辞儀をした。
「はっ、成功といったところでしょうか」
彼は答えた。
「詳しく」
少女に言われると執事は伸びた背筋をさらにばして続けた。
「ダイダナの娘はあなた様の仰っていた通り、彼女と同じ才能を見せてくれました。ダイダナの時はどれか分かりませんでしたが、娘は追えそうです。おそらく最古のうちどれかでしょう」
彼が語ると少女の口元が一瞬上がった。鋭い牙が見える。
「それで奴は?」
少女はもう一人の人物のことを訪ねる。
「彼が最初だったのですが、危うくなくすところでした」
執事の返答に少女は拳を顎に当てて考え込む。
しばらくして頭を横に振り、執事に命令した。
「奴には強くあってもらわなければならん。あのバカのところのじゃあ足りぬ。クージュレを行かせよ」
命令を聞き取った執事は頭を下げると、大きな扉から出て行った。
部屋の暖炉がバチバチと燃え、徐々に部屋が暗くなっていく……
…………
――
朝、僕は部屋の隅に立ててあった剣を手に取り、鞘に納めてから腰につけた。部屋を出て廊下を下り、階段を降りると受付カウンターの前にフィーミェンがいた。
「おはよう」
と彼女に言われ、僕は軽く手を振りながらおはようと挨拶を返した。
「セリナさんが私たちの昨日の依頼の報酬を受け取れるようにしてくれたって」
「そうなの?」
「ヨウも受け取ってって」
僕は彼女に近づき、いつもの水晶にカードをかざす。すると僕のカードには残高25000ポイントという文字が魔法で記載される。
ポイントを受け取り、僕らはテーブルに座って朝食をとった。
「結局革の防具あんまり役に立たなかった。もうボロボロ」
僕は部屋に置いてきた装備を思い出しながら伝えた。
「低レベルの装備だし、避けずに真正面から食らったら相手がゴブリンでも持たないよ」
「昨日はごめん。フィーミェンを守ろうとして逆に心配させちゃった」
僕は彼女に謝る。
「心配はしたけど、守られはしたよ。ありがとう」
「それにしてもあの光の柱何だったんだろう……」
僕が言うと彼女も考え込む。
「あれ、私の魔法かもしれない」
しばらくして彼女が口を開いたかと思うと、訳の分からないことを言った。
「本当?」
「私、その直前にもうダメだと思って心の中でゴブリンがいなくなりますようにって願ったの」
「うん……その願いがかなったっていうこと?」
「一般魔法は詠唱が必要。それに対して、精霊魔法は強く考えるだけで使える」
「それって……」
「もしかしたら私、精霊魔法使いで光魔法を使ったのかも!」
彼女はウキウキしていた。
ということはユリーナちゃんに話したことは全て嘘ということにはならない。光魔法を扱える精霊魔法使いという部分は本物だ。
「じゃあ今まで魔法を使っていて使えなかったのは」
「そう、使う魔法がそもそも間違ってたのかも!」
勝ち誇った顔をして彼女は言った。
「試してみないと!」
食べ終わると彼女に連れられて訓練場に入った。そこには街の警備をする兵士や冒険者がひとりで訓練をしたり、複数人で組み手をしたりしている。奥には魔法使い用の的なども見られる。
「行くよ!」
フィーミェンが的に向かう。彼女は黙って的をじっと見つめ、杖を構える。
すると彼女の目の前に大きくするどい石の槍が結成され、的目掛けて跳んで行った。
石槍は的に当たらず外れたが、その後ろの壁に当たるとともに貫通してしまった。
「やっぱり精霊魔法に魔力倍増の杖は危ないのかな……」
彼女が寂しそうに言ったが僕もそう思う。精霊魔法は自分では無く精霊の力を借りるものなので、通常より高い効果が期待される。だが、フィーミェンによれば精霊魔法にも弱点があり、それは精霊の強さによって魔法使いの強さも変わるので、いつかは限度に達してしまう。また、魔力を大量消費する魔法を連発すれば精霊は弱まっていき、死んでしまう。
「精霊から力を借りるって言うけど、どこにいるの?」
僕はフィーミェンの先祖が契約した精霊を一目見たいと彼女に聞いた。
「分からない。精霊は自由だからどこにいるか特定できないよ。他の精霊に聞いたら知っているかもだけれど」
ため息をつく彼女だったが、あることを思い出し話を続けた。
「精霊の多くはエルフの里にいると聞きましたよ」
エルフ……
この時僕の頭の中にはふたつのことが浮かんでいた。
ひとつ目はエルフの里に行ってみたい、そしてフィーミェンの契約している精霊に会ってみたい。けれど、アキラにも勇者のところへ連れていってもらうよう約束してしまったこと。
ふたつ目は、何歳かも分からない、どこから来たかも分からない、高身長で白い肌に長い金髪の女性。セリナさんはもしかしたらエルフなんじゃないかということだ。
セリナさんの容姿と僕が日本で数々の漫画に見たエルフの容姿は概ね一致している。唯一耳が長い髪の毛で隠れていたせいで今までピンと来なかったが、あの髪を掻き分けたら長い耳が出てくるんじゃないだろうか。
本人に聞いて直接確かめてみようと思い、その考えは頭の片隅に残しておいた。
彼女の魔法の跡を見ると、練習で後ろの街に被害が出ない様立ててあった壁にヒビが入っていた。
アキラとともに王都に行く約束をしてしまったが、フィーミェンをおいていくつもりはない。彼女とともにパーティとして行動し、連れていきたいのだが、無理に来させるよりもまずは彼女の魔法の力を開花させるのを助けてあげたい。もっとも彼女のためになるものは精霊に会い、魔力のコントロールを教わることだと思う。精霊は彼女の話から推測するに偉大な存在だ。神に最も近しいものだろう。
「じゃあ、僕らでエルフの里に行ってみない?」
そう提案するとフィーミェンは目を丸くして僕のことを見た。
「えっ、本当?」
「精霊に魔力のコントロールの仕方を教えてもらえたら良いんじゃないかな」
僕は昨日の出来事を振り返った。ゴブリンの時はフィーミェンの魔法が上手くゴブリンを倒せたから良いものの、 柳の下にいつもどじょうはいない。彼女は今バズーカを闇雲に売っている状態だ。よく分からないまままた同じ状況に遭ってしまえば魔法を外したり暴発したりして僕ら自身を巻き込みかねない。
「でも私のためにそんなヨウまで巻き込んじゃって……」
と彼女が心配そうに言ってきたが、本当に申し訳ないのは僕の方なんだ。
孤軍奮闘してきた僕らが一致団結したものの、彼女には頼ってばかりだ。その恩返しと言っても良い。今回は彼女を優先したいと思う。それに勇者の件などとこれから彼女を僕の事情にも沢山付き合わせるだろうから。
「気にしないで。僕のためでもあるから」
この回答に彼女は首を傾げた。
僕自身もどうにかして剣技を学ばなければただの足手纏いになってしまう。魔法使いのフィーミェンとは当然組手などできないし、コミュ障な僕が練習場のゴツイ兵士や冒険者に頼むのも選択肢にはない。はっきり言ってあの時フィーミェンに話しかけられたのはとんだまぐれだ。
フィーミェンが魔法を打ち続け、的を外し続ける。後ろの壁にヒビが増えていき、そろそろ割れそうに見える。
「フィ、フィーミェンそろそろ終わりにしない?」
彼女の疲労より壁のことを心配して言ったとたん、ひとつの的に当たった。
「見た?!」
「見た」
的は3つ全て消えていた。地面に突き刺さる3本の棒だけが残された。
嬉しそうに彼女は僕の方に振り返り、杖を仰いだ。魔法を的に当てたというよりも、その辺り一帯が爆発させられたようだ。
当然魔法には範囲攻撃の物もあるのだろうが、時に単体攻撃などの繊細さも求められるはずだ。このまま彼女が爆弾少女になってしまわないように魔力コントロールを覚える必要がある。それに彼女は魔法の発動に少々時間がかかっている。精霊魔法がどういったものかを詳しくは知らないが、無詠唱だ。無詠唱のメリットと言えば発動時間が短い、相手に予測されにくいといったところだ。しかし、彼女の練習を見てみれば、本人でさえ発動、発射のタイミングを掴めていない。毎度目を丸くしながら魔法が壁に跳んでいくのを見ていた。魔法の、速度、時間、威力、そして狙いを定められなければ自分や仲間を巻き込む。遠距離メインで練習場の広さの中、的に当たらないのは放っておけない。将来魔物ではなく僕を殺しかねない。そのためにエルフの里に行きたいのだ。エルフの里と剣技は一緒にはあまり聞かない組み合わせだが、僕も何か学びを得られるかもしれないし、道中に何かあるかもしれない。
「昼食を食べに行きましょう」
嬉しそうに彼女は練習場から出て行った。
銀行に寄り、ポイントを銀貨に変換し終わった後、僕らは2日前にバイトで世話になった店長のところで昼食をとることにした。そしてその道中、僕はある建物を目にした。入口の上にここの文字で「図書館」と書かれているのが脳内に伝わる。
僕は昼ごはんのあと、精霊魔法や剣技、エルフの里のことを調べにこの図書館までフィーミェンとともに戻ってくることにした。
次回 十八 本荒らし
1/30 金曜日 16:00ごろ公開




