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十五、あの杖をください

「それで、その剣はどうだい?」

 ブユーグルさんは僕が店に入って最初に手を伸ばした剣を指差す。

 僕は剣を壁から取り外すと、両手に持って眺めた。銀色の剱が手の中で冷たく感じる。

「軽いんですね」

 僕の最初の感想はそれだけだった。小学校、中学校で憧れて買ってみる木刀よりは重たそうだが、本物の剣だとは思えない軽さだ。レイピアでもない、ただの剣なのに。

「軽いだけじゃないぜ」

 得意げそうにブユーグルは言ったが、僕の素人目に分かるようなことはなかった。

「何かあるんですか?」

 思わず聞くと、彼は楽しみにしろと言った。

 僕の武器がもう決まったかのように彼はフィーミェンさんに視線を向けた。

「アレかい?」

 暗号のように問いかけると彼女はコクリと頷き、魔法使い用杖の並ぶ部屋の片隅まで行き、真っ赤な杖を選んだ。長さは彼女の首元まで来ていて、明らかに大きさが合っていない。ほとんど一色の杖だが、上の先端部分だけ、三日月型の黄色い宝石が載せられている。

 ブユーグルさんによると、この杖は魔力倍増の杖らしい。フィーミェンさんは自身が魔法を使えないのは魔力が少なすぎるからと判断した。そのため、魔力を増やす杖や道具があれば良いと考えていた。そしてついにその念願の杖を手に入れることとなった。目の前の杖を見る彼女の目は潤んでいた。初めて飛ぶ小鳥のよう。

「本当にありがとうございます!」

 彼女はブユーグルさんに深く礼をした。

「それにしてもなんでそんなに魔法使いにこだわるんだい?」

 ブユーグルさんは魔法の使えない彼女に大ダメージを与える。

「小さい頃、物心つく前に両親を亡くした私に遺されたのは母が部屋に飾っていた杖でした。家ごと崩れていて、杖も折れてしまったのですけれど、私の目に留まったんです。今はもうないのですが、両親のたったひとつの形見だったんです。だから魔法を諦めたくなくって……」

 今までの彼女ならここで泣き崩れていただろう。だが今日、過去を語るローブの魔法使いは必死な顔をしていた。

「そうか。それなら止められねぇな」

 ブユーグルさんはそう言って彼女の背中をまたドンと叩いた。

 僕らは店を出る際、もう一度彼にお礼を言った。

「ブユーグルさん、本当にありがとうございます!この剣、杖、一生大切にします!」

 そうすると彼は少し照れたように返した。

「ブユーグルで良いさ。武器は一生もんじゃねぇ。いつかは壊れるから、その時は眠らせてやってくれ」

「はい!」

 店を出ると、フィーミェンさんに今度は迫られた。

「あの!こんな喋り方しながら言うのもなのですが、私のこともフ、フィーミェンとタメ口で呼んでくれませんか?」

「じゃ、じゃあフィーミェン……僕のこともヨウでお願い」「防具を買いに行きましょうかヨウ!」


 ――


「ぜ、全部無くなっちゃったね……」

 ブユーグルに貰った剣と杖を手に僕らは防具屋から出た。彼女は前々から来ていたローブを、僕は彼女が遠慮してくれたおかげでやっと買えた革の装備を着ている。

 ブユーグルから貰ったこの剣と杖も、本当に払おうとしていたならば僕らは買えていなかっただろう。浮いたお金で装備を揃えようとはしゃいでいたら、僕の防具だけで2人の資金全てを使い果たしてしまった。それも革の防具など低レベルときたらこれ以上下がらない。フィーミェンのローブはなかなか高価なものだが、彼女の財布も空にしてまで買った革の装備はいつまで持つか分からない。最悪の場合、特訓してボロボロになって討伐依頼に行く頃には切れないかもしれない。プラスに考えれば、この世界での金銭感覚を掴めてきた気がする。

 しかし僕らはせっかく卒業した一文無しに戻ってしまったのだ。

 ということは

「もっと依頼やらなきゃ宿代がない!」

 のである。

 パニックになるフィーミェンを僕はギルドへ連れて行った。数日前はギルドを怖がっていた彼女がギルドなしでは生きられなくなっている。僕もそうだが、僕はもともとだ。

 依頼ボードからひとつ紙を剥がす。今日を越せれば何でもいい。お金がなく、昼も食べられなくて腹の減っている状態だが、仕方ない。店長のところで働いていた時みたいにこっそりつまみ食いしてしまおうか。さすがにダメだなと思い、すぐに手に取った依頼を確認した。内容は街のとある家を掃除すること。報酬は50000ポイント?!どうしてこんな依頼があるんだろうか?こんなにハイリターンなものならば普通はすぐに取られてしまう気がするが、もしかしてこの家とんでもなく汚いのかな?

 僕は依頼書をフィーミェンに見せた。

「うそ!こんなに?!」

 当然のリアクションをした彼女は僕を引っ張って記載されている住所まで連れて行った。

 そしてついたものの、完全なるボロアパートのような見た目をしていた。こんなもの誰も住んでいないだろうと思わせるほどに屋根や壁に穴が開いていたり、窓が割れていたりした。依頼は依頼だと思い、僕らは中へ入った。

 リビングのようなスペースに入ると、フィーミェンは馬小屋の時と同じように手袋を僕に渡した。

「さっそく取り掛かりましょうか」

 まずは探索してこのボロ屋敷がどれほど汚いのか探すことにした。フィーミェンに一階を任せてから、僕は今にも崩れそうな階段を上がり、二階を探索した。数々の部屋のドアは穴が開いているかドアが外れているかだった。部屋の中には木の箱がいくつも積んであり、埃を被っていた。綺麗にしてほしいとはこのことなんだろう。

 依頼主はいったい誰なんだろうと各部屋から箱を廊下に出しながら僕は考えた。依頼を達成したと証明するため、依頼人に見てもらわないといけないはずだが、埃を大量に集めてギルドにもっていけばいいんだろうか。馬小屋を綺麗にしたときは糞まみれの手袋で通ったし。

「ヨウ?こっちに来てくれる?」

 ほとんどの箱を廊下に出し終わったころ、フィーミェンに呼ばれたので僕は恐る恐る階段を降り、彼女を探した。

「どうしたの?」

 彼女は地下に続く階段を見ていた。階段の先にはドアがあり、固く閉ざされている。僕が来たことを確認すると、彼女は扉を指さした。

「うん、どうしたの?」

 僕が聞くと、彼女はまたドアを指さした。

「開けて」

「僕が?!」

「怖い」

「僕も怖い。せーので開けよう」

「うん」

 僕らは一段一段ゆっくりと下り、ついに剣と杖を取り出してドアの前に立っていた。ふたりとも自分の武器を今朝手に入れたばかりだし、使い方を全く知らない。ふたりの手がドアノブに触れ、ゆっくりと回し、扉を押し開けた。中はとても暗い。

 地下室には窓からの明かりなどない。完全に真っ暗で、剣を伸ばしても暗闇に吸い込まれていく。

「足元気をつけて」

 ボソッと言う彼女の声も闇の中に溶ける。

 僕は剣先をわずかに下げ、壁を探るように横へ振った。一歩、また一歩と踏み入り、目を暗さに慣れさせる。徐々に見えるようになると、部屋の手前には同じような木箱が置いてあるのが見える。ドアから入る少しの光でも目が慣れさえすればと僕はさらに奥まで進む。フィーミェンの足音がついてきている。

 左手を無意識にポケットに入れ、スマホで部屋を照らそうと空のポケットを探っていたら、突然積んであった木箱の倒れる音がした。

「何かいるの?」

 と呼びかけるが、返事はない。

 フィーミェンがドアを最大限に開け、できるだけ部屋を照らそうとする。床を伝って壁にまで明かりがいきわたる。地下の部屋なせいで床の剝がれているところは岩や土がむき出しである。

 僕は先程音の聞こえてきた方向に目をやる。他の木箱は僕の身長より高く積み上げられているのに対し、一か所だけ胸あたりの高さしかないところがあり、倒れたのが明白になっている。

 半分崩れた木箱のタワーにそっと近づき、剣先でツンと突こうとする。隣では杖を棍棒のように持ち構えるフィーミェンが映る。僕ら二人は次の瞬間、恐怖のあまり固まってしまった。

 上から2番目の木箱。手に間違いないものがまとわりついている。四本の人外な指が現れ、僕は思わず剣を落としそうになった。黒い手がぬっと出てくると、怖くて僕は剣を構えるのは愚か、逃げることさえできなかった。謎の皺くちゃの手は指を箱のこちら側まで忍ばせると、ゆっくりと箱を押しのけた。黄色い眼をした猫背の怪物。箱の後ろ、地下室に隠れていたのは小さな魔物だった。

「ヤーッ、キキキ……」

 奴は謎の声を発し、首を横に曲げ、耳を地面と垂直にして僕らをじっくりと観察した。

 この間に逃げる時間はたっぷりあったのに、僕も逃げなければ、フィーミェンも逃げなった。真に怖いときは逃げることさえできなくなってしまうのだ。

「ゴ、ゴブリン……」

 フィーミェンが声を絞って言うとゴブリンは不気味に笑い出した。聴くと吐き気のするような笑いだ。

 ギェーッと鳴きながら前触れもなく襲ってくる。両腕を前に出して木箱に体当たりし、僕らめがけて跳んだ。

 地面へ植え付けられたように固まっていた足がようやく動き、僕は横にダイブして攻撃をかわした。落としてしまった剣を拾い、立ち上がる。剣を今度こそ構え、ゴブリンに突きつけるとまた奴は首を傾げた。

「ウィンドストーム!」

 棍棒を止め、槍のように杖を持つフィーミェンが後方から叫ぶ。

 彼女の姿はとても魔法使いらしく、槍のように持つのが正規なのかもしれないが、何も起こることはなかった。

「ファイアバースト!」

 ……

「ウォーターブロー!」

 ……

「ロックバレット!」

 ……

 彼女がいくら繰り返し魔法を使おうと叫んでも、何も起こらなかった。

 ゴブリンはケケケと笑い、僕らに近づいた。それと合わせるように僕らも一歩下がった。一歩、また一歩下がり、僕の背中は壁に押し当てられた。

 下がる間、僕らはゴブリンに誘導されていた。気づけばふたりとドアの直線上にゴブリンがいる。もう逃げ場はない。僕は剣の取手を両手で強く握り、ゴブリンが近づくのを待つ。額から汗が頬を流れ、靴に当たる。

 裸足の化け物が長い爪をこちらに向けて進む。

 ゴブリン一匹。肋骨の見えるほど貧弱そうな体で、僕の半分ほどの身長しかない。小学一年生にもかなわぬような体躯のゴブリンは、ゲームだったら大抵雑魚キャラだ。致命傷には至らないだろうと思い、僕は跳びかかってきた奴に向けて剣を突き出した。

次回、第十六話 魔砲を放て

1/19 金曜日 17:00頃公開!

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