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十四、特訓のために

こちらの都合で1日早く投稿させてもらいます。明日は予定通りの時間に次話を公開します。

 日の出、部屋のドアに3回のノックで起きた。昨晩見たメイドさんの声が聞こえる。

「朝食の準備が出来ました。冷めないうちにいらしてください、主人様が待っておりますので」

 起きるときに僕の手はスマホの目覚ましを止めるかのようにベッドから伸びていた。しばらく探りまわっても何もないと思い、半寝状態の僕は目が覚めた。

 そのご主人様をこれ以上待たせてはいけないなと僕は急いで服を着替えた。寝間着を貸してもらい、僕らの着ていた服は夜の間に洗濯、乾燥までしてくれたようだ。昨夜廊下に出しておいたと同じ位置に戻っていた。二度目に扉を開けるとフィーミェンさんもちょうど朝食を食べに行くところだったそうなので僕が靴ひもを結ぶまで少し待ってもらった。

「不思議な靴ですね」

 彼女は言ったが、決して僕と顔を合わせない。まだ怒っているのだろうか?

「履いてみます?すごく動きやすいんですよ」

「遠慮させていただきます」

 夕飯と同じ机に今度は豪華な朝食が並ぶ。今まで朝なんてシリアルとパンだけだったのに、こんなに腹が膨れるような料理を朝から食べると舌には良いが、体が重い。

「よく眠れたかね?」

 ユリーナの父親がナプキンで口元を拭きながら聞いた。

「ええ、とても良い目覚めでした」

 フィーミェンさんが先に答える。

「君はどうだったかね?」

 僕に向けた質問だと気づき、慌てて答える。

「は、はい!よかったです。とてもふかふかで……」

「なにか不満だったかね?」

 僕が先ほど考え事をしていたのを悟って男は優し気に聞いた。ここで本当は気持ちよくありませんでしたなどと言っても怒鳴り散らかすより改善点を教えてほしいということだろう。

「娘がよく眠れるように不満がったならば教えてほしいのだが……」

「いえ!そんなことはございません!ただ昨夜ふしぎな夢を見て……」

 僕の発言に男とフィーミェンも興味を持ったので背筋がゾワッとした。まさかこの世界は選ばれしものしか夢を見ないとかそう言うことか?

「どんな夢だったんだい?」

「それがあまり思い出せなくって……」

 夢の記憶があやふやすぎて語っても意味がないだろうと思い、そう伝えた。

「そうかい。もしかしたら夢の中でまで冒険してたのかもしれないなぁ!」

 愉快そうに彼は笑った。幸せそうだ。娘はいるが奥さんはいないのだろうか?

「すみません……失礼じゃなかったら、奥様は今どちらに?」

「ああ、妻は南国に旅行中でね。いくら娘が可愛くても、金があっても、子育ては大変なんでね。たまには旅行に行かせてあげているんですよ。娘は連れて行くのには幼すぎる。かといって旅好きの妻を引き留めるわけにはいかない。ちょうどいいバランスを見つけることが大切だな」

 良かった。奥さん死んでなかった。それにしてもますます家族思いの父親だ。そして聞けばこの男、このあたり一帯の領主を引き継ぐんだそうだ。この街もずいぶんと恵まれたものだ。そういえば僕、南国へ逃げたことになっていたんだっけ。

「そういえば店長とはどういった関係なんですか?」

 フィーミェンが聞いた質問だったが、僕も物凄く気になっていたところだった。

「私は昔あそこで働いていてね。彼に店を引き継がないかと言われたんだ。あの時は断ってしまったが、少し後悔しているかもしれない」

 残りの時間は静かに食べた。

「昨日今日とありがとうございました」

 僕らは男に深くお辞儀をした。

「依頼だ。お互い様ですかな。ユリーナもお別れを言いたいと思うのですが、まだ寝ていますのでね。引き留めてしまうのは迷惑でしょう」

 迷惑というよりかはあの少女の前でボロを出してしまわないか心配だった。

 僕らは門をくぐって大通りに出た。

「では、ギルドに一度戻って報酬を受け取りましょう!」

 フィーミェンさんに言われ、僕は彼女に着いて行った。

「二日で依頼達成数6回ってことですよね」

 僕が言うと、彼女は自身が25依頼達成するのにかかった月日を思い出そうとしていた。

「まあ、結構順調だと思いますよ?ポイント、お金もたまってきたところですし、一度装備屋に寄ってみませんか?」

 久しぶりに収入ができ、買い物という選択肢が出現するとフィーミェンさんはテンションを上げていった。

「そうですね。それもいいかもしれま……せん」

「どうしました?」

「気のせいです。行きましょうフィーミェンさん」

 何かの勘違いだろうか?今すれ違った人、どこかで見たことのあるような気がする。後姿は整った白い髪の毛に黒いスーツ。スーツでサラリーマンに似ていたから僕の脳が日本と錯覚してしまったんだろう。僕は気にせずそのことは忘れてギルドに向かった。

 ギルドの後は装備屋に行ったが、装備屋はひとつではない。武器の専門店、防具の専門店、そしてフィーミェンさんの追い出された魔道具の専門店。ギルドの両側には多くの装備屋が建ち並ぶ。

「まずは武器屋から見てみましょう」

 剣と盾の看板の店に入る。

 店内は薄暗く、明かりは窓から差し込む太陽の光のみ。その光を反射し、鋭さを自慢するような剣が入口の両側に飾ってある。様々な長さの剣、奥の方を見れば剣でもないものがあるのもわかる。短剣、大剣、槍、鉾、弓、杖、名前の分からないギザギザの剣、そして刀に似たような形状のものもあった。刀っぽいものがあるのは勇者の影響だろうか?

 僕は店の中を彷徨い、数々の武器を見て回った。ほとんどの剣は僕の身長には少し長いと思った。短いものもダガーや短剣サイズになってしまい、ちょうどよさそうな長さの剣を見つけたときは心が弾んだ。僕が壁に飾ってあるその剣を触ろうとすると突然声が聞こえたので手を引っ込めた。

 「その変わり玉を選ぶとは、小僧お前見どころがあるぜ」

 声元に頭を向けるとそこには体中が傷だらけの男が立っていた。片目は海賊のようなアイパッチで隠されていて、右腕の親指がない。髪の毛の代わりには立派な髭が生えているが、少し焦げているように見えた。男は片足の痛むような歩き方をして僕らの方へ近づいてきた。

「あ、おはようございます」

 フィーミェンさんが彼と面識があるように言った。

 男は最初暗さで彼女の顔が見えなかったのか、さらに近づいた。近づくにつれてその巨体が現れていく。頭は天井まで届き、三メートル近くあるんじゃないかと思われる体が僕らを見下ろした。彼は片方の目を懲らしめてフィーミェンさんを見た。

「おや?お前、嬢ちゃんか」

 向こうも彼女を思い出し、男は彼女の背中をドンと叩いた。バランスを崩したフィーミェンさんが倒れそうになる。

「おっとすまんすまん。それで、また見に来たのか。連れか?」

 男がフィーミェンさんに尋ねると、僕が代わりに答えた。

「僕らパーティを組んでいるんです」

「だから最近来なかったのかい」

 彼の言葉の意味を彼女に尋ねると、彼女は僕と会う前よく来ていたそうだ。

「私、ほとんど毎日ここに杖を見に来たんです。街の唯一の武器屋ですから、私もお金が貯まったらここで買わせていただこうと思っていたのですが、ギルドにも入れずにいて……」

「好きなだけ見て行ったら良いさ。別に買わなくちゃいけねぇことはねぇ」

 男が彼女に続けて言った。

「ブユーグルさんは何も買えない私でも見せて触らせてくれるんです」

 彼女は今度ブユーグルという男に体を向けた。身長の倍近くある人の顔を見上げる彼女の首は天井を見ると同じ角度だった。

「でも今日はお金あります!私達、特訓したいんです。なので初心者向けの物でも……」

 彼女が小さな財布を取り出すと、ブユーグルさんは大きく息を吐いた。

「俺はこいつらが金を投げるような輩に買われてほしくねぇ」

 彼は自分の子供かのようにあたりの武器を見回した。

「こいつらも、大切に使ってくれる奴に買われてぇだろうな」

 ひとつひとつに目を止めてその存在を確認する。

「お前さん達には立派な冒険者になってもらいてぇ。だから好きなのを持っていけ。なんなら俺が選ぶのを手伝ってやろうか?」

 突然の申し出に僕らは口を開けた。

「そ、そんなこと!」

「良いんだよ。後で払ってもらう気もねぇ。それに防具も買わなくちゃだろう。両方とも買うことなんて出来ねぇんだろ?その代わり次回は全額きっちり払ってもらうからな」

「はい!」

 僕らは揃って返事をした。

 ここへ来て、何も分からない僕にこの世界のことを教えてくれるアキラ、セリナさん、フィーミェンさん。仕事として引き受けたのに必要以上に優しく接してくれた店長、ナイトーハス伯爵。そして僕らの成長が見たいと武器を備えてくれるブユーグルさん。この世界はとても優しい人ばかりだ。僕は心の中でこの世界に僕を連れてきてくれた神様に感謝した。

次回、第十五話 あの杖をください

1/19 月曜日 16:30頃公開!

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