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十三、深林を彷徨う

 アキラたちはヴァロネの森の前に作られた木造の柵まで来ていた。長い壁が一本の塔から伸び、森を囲っている。

 「おお、アキラじゃねえか」

 塔の中から兵士が現れ、20人余りの冒険者を高い柵の反対側まで通す。

「こんな大勢連れてどうしたんだい?」

 彼はアキラの後ろを通る行列に目をやりながら聞いた。

「聞いてないのか?ここを通った奴が森に魔物がいないと言うんだ。金で集められた調査隊さ」

 アキラが答える前に背後からゲナートがアキラの肩に手を置き、代わりに言った。

「確かに来たなぁ。森から来てなぁ、記憶喪失だったそうだぞ」

 兵士は頭をぽりぽり掻きながら三日前に出逢った青年のことを思い出した。

「最近ここからも魔物出没届が来てないだろう?」

 アキラが言うと兵士は考え込んだ。

「確かになぁ。最後にこの壁ぶち破ろうとしてきたのは随分と前だなぁ。半年前か?」

 最後の冒険者が塔を通って国から森側へと入った。

「まぁ、気いつけろよ」

「おうよ」

 ゲナートが言うとアキラと共に列の先頭についた。

「皆の者、これから魔物調査のため、ヴァロネの森に入る。覚悟しておけ!」

 アキラの掛け声に合わせて男たちがうなる。

「うおおお!」

 アキラの後ろに十人ほど、ゲナートの後ろに十人ほどと二列に分かれて森の中へと行進していった。

 日が行く先を照らす野原とは違い、進めば進むほど森は暗くなった。

 「確かに魔物がいねぇな。おい、足跡があるぞ。森の奥から外に向かってるみてぇだ」

 ゲナートが地面を指さす。

「靴か?それにしちゃえらい模様だな」

 彼はそう呟いたが、アキラはこの跡が(だれ)かがすぐに分かった。

「大丈夫、これを辿ってみよう」

 そう言って二人は後ろに冒険者たちを引き連れて足跡を逆戻りした。

「この追跡の仕方は案外難しいな。後ろ歩きでやってみたらうまくいくかな」

 とゲナートは笑いながら言うが、アキラは熱心に追い、人型の跡がある木々のない小さな空き地を見つけた。

「ここで止まっている」

 アキラはポケットから方位磁針を取り出した。

「森の奥に行くには西北西(こっち)だ。」

 彼は方位磁針を見ながら体の向きを変え、一方向に歩き出した。

「これだけ森が静かだと気味が悪いぜ。魔物の唸り声でもあってくれてほうが安心だ」

 ゲナートが言うと列に続く彼の後ろを歩く男がアキラと2人に言った。

「この森には強力な魔物もいたはずだ。壁がなかったころはしょっちゅう森周辺の村を襲撃したって噂だ。そんな大量の魔物がいなくなるなんて、ただ殺されたんじゃねぇ。勇者でもそんなことはできない」

 アキラも彼に共感したように言う。

「そうだね。もっと恐ろしいものがこの森にいる」

「おいおい、とんでもねぇバケモンがいてみんな逃げちまったって言いてえのか?そんなもんが襲ってきたら一匹でも俺らで(かな)うか?」

 ゲナートは恐ろしそうに言ったが、アキラたちの考えていた可能性はそんな程度のものではなかった。

 後ろの男が少し考えると、アキラの考えと似たような可能性を出した。

「いや、魔物が逃げたなら各地で出没情報が出てくるはずだ。だがバハレン諸邦でも、帝国でもなかった。あくまで可能性だが、その恐ろしい何かは魔物たちをすべる力を持っているのかもしれない」

 ゲナートは頷くアキラと男を交互に見返した。

「魔王軍みたいなのが一気に押し寄せてくるかもしれないってことか?!」

「可能性としてあるね。警戒して進むべきだ」

 アキラは言うと、列の後ろの様子を見た。

「そろそろ休もうか」

 彼らは先ほどよりも大きい広場を見つけると、それぞれテントを張り始めた。そして今晩の見張り役を決め、夕食も始めた。

 アキラにゲナート、先ほど3人で話していた男も含めて合計5人が大きめのテントの中に集まって森の地図を見下ろしていた。

「今我々がいるのはこの辺だ」

 先ほどの男が地図の1か所にバツ印を付けながら言う。彼は歩いている時フードを被っていたが、外している今とても若い青年に見える。アキラほどではないが、20代に入っているか怪しいほどに若い顔をしている。

「森は広大だ」

 もうひとりが言う。

「だが現時点での目的地は決まっているな。ここの崖だ。ここからなら森の大部分が見渡せる。何より魔王時代に吸血鬼の屋敷があったって噂だ。魔物を束ねてるやつがいるならそこを根城にしている可能性が高い」

 それに全員が頷いた。

 吸血鬼(ヴァンパイア)は勇者が魔王城で倒したが、幹部だった彼はヴァロネの森とその周辺の魔王領を任されていた。勇者が魔王領を巡って魔物退治をしたり他の幹部を倒していた間、吸血鬼(ヴァンパイア)は魔王城決戦で勇者に倒されるまでに自領地で力を蓄えていた。

 魔物は森に増え、他の領地からも森に隠れようと魔物が集まって来た。彼の統率があり森の周辺は以外にも平和だったものの、彼が倒されてしまってからつい最近までは知能の低い魔物が森から波のように押し寄せてくることが度々あった。

 崖に行く理由は魔物がいなくなったのは彼の後継、又は他の存在が魔物たちをまとめ上げ、吸血鬼(ヴァンパイア)と同じように崖の上の館の拠点にしているという予想であった。

 そして森の大部分が見渡せる、山に囲まれているということはもし予想が外れたとしても森の異変を上から探るという予定の元、アキラたちが立てた作戦だった。

 その後、夜の会議は崖までの方角と道のり、途中のキャンプ地点を計画して終わった。

 

 朝になると男たちは荷物をまとめ、崖に向かって歩き続ける。

「崖に着いたらどうするんだ?」

 昨晩の会議に参加していた男の一人が先頭を歩くアキラに聞いた。

「崖は登るしかない。後ろは山に囲まれている。ゲナートとふたりで先に登ったらロープを降ろす予定だよ」

 アキラはゲナートにも聞こえるように答えた。

「よし、任せとけや!」

 ゲナートは元気よく答えた。

「ギルドの料理が恋しいなぁ」

「ヨウ今何してるかね」

「報酬もらったらブユーグルに新しい武器作ってもらおう」

 などとアキラたちは周囲を警戒しつつも世間話を楽しみながら何日もかけて崖の(ふもと)までたどり着いた。


 森と崖の間には、王国側の森と壁のように木のない空間があり、崖を囲っていた。視界が良く、より登るのに適しているところを探そうとアキラが崖を観察していると、突然声がした。

「冒険者の方々、ここから先へは立ち入り禁止区域です。お引き取り願います」

 白い髪の毛に白い髭の男は執事のような恰好をしていた。丁寧にお辞儀をすると、頭を上げ、アキラたちを見つめた。

「おい、あんな奴さっきいたか?」

 ゲナートの発言に全員が息をのむ。この者はただ者ではない。

「どちら様でしょう?」

 アキラは執事に聞いたが、同じ台詞が帰って来た。

「お引き取り願います」

 列が崩れ、男たちはゆっくりと前に進みながら怪訝な男を包囲するように動く。

「それはできませんね。こちらは調査に来ているんです」

 アキラが言うと、彼は失望したように答えた。

「そうですか……」

 その言葉とともに彼は白い手袋のついた手を拳にし、素早い動きで一番近かった男を森の中へ投げ飛ばした。

 それを合図化のように全員が一斉に男を倒しに突っ走る。アキラもゲナートも参戦し、冒険者20人対老人一人なのにも関わらず、激戦へと発展した。

 ゴツイ男が執事にハンマーで降りかかるが、ダンスのような動きでかわされ、足を引っかけられた巨体はずしーんと倒れ、気を失ってしまった。

 縦と剣を持った男も執事の背中目掛けて攻撃を仕掛けようとするが、執事は背中に目があるかのように剣をよけ、前から突進してきた槍使いと盾持ちの男を衝突させた。

「これじゃあ完全に遊ばれてるみたいだ!」

 次々と倒されていく仲間たちを見てアキラは参戦するのを止めた。皆が執事を引き留めている間に崖を上ってしまおうと、ローブを取り出した。

 アキラは離れた場所に来ると崖を見上げ、覚悟を決めた。高さは十階建てほど。落ちたら大怪我ではすまない。サポーターが戦闘に割かれている今、落ちた場合の死はほぼ確実だ。

 アキラは腰にロープ巻くと崖を登り始めた。

 振り返るとまだ仲間達が戦っているのが見える。既に多くの冒険者が戦闘離脱させられているが、ほとんどは傷ひとつなく気絶させられていた。

 仲間の安全に安堵の胸を撫で下ろす反面、自分達ではあの執事に到底及ばないのだと理解した。

 アキラは必死に崖を登る。岩を掴む指が裂けそうだ。手は汗ばみ、呼吸が乱れる。

 背後で金属がぶつかる音が響いた。盾と剣が食い違う音。執事が武器を持っていなかったことを見ると先程のようにアキラの仲間同士を上手いことぶつけているのだろう。

 足音が次々と消えていく。後ろで聞こえるのは戦いの音ではなく、仲間が倒れる音だ。

 足場が崩れ、腰に巻いた安全ロープが食い込む。

 心臓が止まりそうになるも、アキラは落ちないようにと登り続けた。

 崖の縁が視界に入った、その瞬間だった。

 奴がいる。

 そう理解した時にはもう遅かった。

「おや、アキラくん。ここから先は頂けませんね」

 穏やかな声が頭上から聞こえ、ローファーが見える。

 アキラは息を呑み、崖にしがみつく。彼のすぐ上に立っていたのは先程まで冒険者たちを翻弄していた執事だった。

 衣服に乱れはなく、息ひとつきれていない。

「なぜ知って……」

 アキラの問いは喉で途切れた。

「知ってます。貴方が勇者の息子であることも、お友達のことも」

「……?!」

 アキラは執事が誰のことを話しているのか悟った。

「ヨウのことか?!」

 執事は答えずに彼を見下ろした。

「登攀は感心します。しかし、許可なく上がらせるわけにはいきません」

 白い手袋がロープを掴む。

「やめ……」

 言い終わる前にロープが切れる。

 アキラの体が崖から剥がれ、宙に放り出された。

 視界が回転し、風が耳を打つ。

 そして落ちる。

 しかし地面に叩きつけられる衝撃はなかった。何者かに背中を支えられている。

 また執事だ。

 彼はアキラよりも早く登り、落ちるよりも早く降りた。

 周囲を見渡すと、ゲナートを含め全員眠らされていた。

 誰も血を流しておらず、皆無力化されていた。

「命は取りません。ご安心を」

 そう言われ、アキラも眠らされた。

次回、第十四話 特訓のために

1/19 月曜日 17:00頃公開!

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