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十一、店長のお勧め

 次の日、また泊めてもらった分の銀貨をセリナさんに支払うと、依頼ボードに向かった。報酬ポイントだけをみて、一番高いものを探す。報酬5000ポイント?いや、馬小屋のだ。勘弁させてもらおう。昨日やったばかりなのにまた依頼があるとはどれだけ汚いんだ馬たちは。他に報酬の多いものはあまり無かった。仕方なく、僕らはアルバイトとも言えるような仕事を引き受けた。

 5回目の仕事はとあるレストランでのお手伝い。料理を提供するに特化した建物は長机で埋め尽くされていて、椅子も多かった。セリナさんのギルドで作るレシピもここのものをいくつか出しているらしい。

「好きな席へどうぞー」

 レストランの中に入ると、店員が気持ちよく迎えてくれた。だが僕たちは食べに来たんじゃない。働きに来たんだ。レストランは朝からいっぱいでウェイター達が急いで料理を運んだり、調理室から注文の叫び声も聞こえた。人手が足りなくて依頼を出したんだろう。

 僕らはお皿を下げている店員に依頼書を見せた。

「あー、調理室に入ってください。そこに店長がいますので」

 そう指示されたフィーミェンさんと僕は調理場に入って行ったが、怒鳴られてしまった。

「コラァ!誰だ厨房へ勝手に入ってる奴は!」

 と白髪のおじいさんに叱られたが、彼は僕の持っている依頼書を目にするとすぐに態度を変えた。

「ぬぅ?君たちが依頼を引き受けてくれた子達かね?すまないな、今大変忙しいんだ」

 僕らの前に来ると彼はシェフの帽子を取った。

「わしが店長。この店を継いでから五十年、だが腕は劣っておらんぞ。今でも新人をビシバシ鍛えとるわい」

 彼は嬉しそうに手を叩きながらそういった。

 「朝から随分と混んでいますね」

 フィーミェンが言うと、彼は誇らしげな表情で鼻を伸ばしていた。

「ここは街一番レストランじゃからな。とはいっても、通常はここまでは来ぬ。森に魔物がいなくなったという噂が流れてな、森の探索依頼がたくさん出ているそうじゃ。そのおかげで冒険者が続々と集まってわしは大繁盛で大儲けじゃ!」

 彼の言葉に僕は唾をのんだ。緊張を読み取ったのか、フィーミェンさんが不思議そうに僕のことを見る。

「どうかされました?」

「いえ、なんでもないですよ」

 僕はひとまず彼女をごまかした。彼女には僕が森から来た異世界人だということは伝えていない。元々は伝えるつもりだったのだが、セリナさんに止められた。通常は王国の儀式でしか異世界から渡ってくる人はいないため、森で起きた僕は異常なのだ。異変なのだ。あまり他言はするなと言われてから自重し、僕をここまで信用してくれているフィーミェンさんには申し訳ないが、僕が異世界人ということは黙っておく。

「じゃ、まずはこれに着替えろ」

 そういって店長に渡されたのはウェイターとウェイトレスの制服。僕らは更衣室を借りて着替えると、すぐに仕事にとりかかった。

 まずはトイレ掃除。馬のトイレの後は人間のトイレ。僕はトイレ掃除が決して好きではなかったが、どうしてもプロの気分になってしまった。

 次にお客様からの注文を聞き、調理場にいる人へ伝える。スマホで簡単にメモしようとわざわざ更衣室まで戻ったが、ズボンを持ち上げるなりそんなものは異世界にないと思い出した。何サボっているんだと店長にも叱られた。

 その後は床の掃除。どこでも僕らは掃除をしている気がするが、お金のためならば仕方がない。フィーミェンさんと強くなると約束した。僕は約束を守る男だ。床が輝くまでモップでこすり、綺麗にした。

 他にも沢山の仕事を任され、今日いくつか依頼をこなす予定だったのが、レストランでのアルバイトだけで夕方になってしまった。外が暗くなり始めるとようやくお客様の人数が減り始め、僕らは仕事が一段落ついたから終わりにしていいと店長に言われた。

「実にいい働きだった。若者はええなぁ。ほれ、これも持ってけ」

 店長に褒められ、さらに僕らの帰り際に銀貨を十枚ずつくれた。

「えっ、こんないいんですか?!」

 聞き返すと、店長は手を振った。

「今日は長く引き留めて悪かった。ギルドに戻ったらナイトーハスと書いてある依頼を受けたらいい。夜通しだが報酬もよく、無料で止めてもらえるぞ」

 仕事中ビシバシ指摘してきたおじいさんが急激に優しい口調になり、僕らは驚いていた。しかし何も言わずに手を振り返し、ギルドに戻ってポイントの報酬を受け取った。

 水晶に金のカードをかざすと一人3000ポイント振り込まれた。カードを確認すると、僕らは店長に言われた通り、依頼ボードでナイトーハスと書かれた依頼を見つけると紙を板から剥がし、フィーミェンを頼りに記載された住所へ向かった。夜の街はとても静かで、僕が最初この街に来た時のことを思い出す。アキラたちはいつ戻ってくるのか分からないので、彼らに合ったらお礼を言っておこう。

 僕はフィーミェンの後ろを歩いて行った。今回は裏路地などを取ることなくずっと大通りだった。まあ裏路地があんな感じじゃあフィーミェンさんが通ることはないだろう。すると、彼女は紙を確認しながらピタリと止まった。目の前には巨大な屋敷がある。どうやらこの街一番の富豪、ナイトーハス伯爵の屋敷らしい。巨大な建物に目を囚われていた僕はフィーミェンさんに引っ張られながらドアの前に辿り着き、3回ノックをした。中からはメイドのような茶髪の女性が現れ、中に招き入れられた。中にはラウンジングエリアのようなところがあり、金髪で大きな体躯の男が赤いソファーに座っていた。

「君たちが依頼を引き受けてくれたんだね?」

 低い声で男は言った。

「そうです。角のレストランの店長に勧められました」

 僕が伝えると男は少し笑った。

「あの爺さんまだ生きていたんだなぁ。明日にでも挨拶に行こうか」

 と店長と知り合いのようだった。

「じゃあ、君たち相当の腕前ということなんだね?」

「はい?」

 僕は彼の質問が分からず曖昧に答えてしまい、彼はそれをイェスと受け取ってしまったらしい。

「着いてきてくれ」

 踏ん張ってソファーから体を起こすと、のしのしと廊下を歩いて行った。隣には彼を転んだ時キャッチできるようにしているのかに見えるほど近くでメイドが歩いていた。赤いカーペットのしかれた廊下を歩き、いくつもの高級そうな花瓶の横を通り過ぎた。間違ってでもぶつかってしまったらどうしようかと思い、僕は身を竦めて歩いた。ようやく男がドアのひとつの前で止まった。僕は振り返ったが、案外ソファーから遠くなかった。僕の緊張のせいで距離が増えたように感じただけだった。

「ここは娘ユリーナの部屋だ。彼女は毎晩冒険譚を聞くのが好きなんだが、今ほとんどの凄腕冒険者は森に出てしまっている。彼女に面白い話を聞かせてやってくれ。もちろん報酬は多いし、ここに泊って行くように部屋を用意させてある。朝ご飯はどうだ?風呂も使っていい」

 僕らは顔を合わせた。全く持って冒険譚などないが、こんなにやってくれるならと断るのが難しくなり、気づいたら引き受けていた。僕らは彼の娘、ユリーナの部屋に入る。中は甘い香りが漂い、カラーは女の子のようなかわいいピンクではなく、暗黒龍のような黒色、紫色で飾られた部屋だった。中央に大きなベッドがあり、少女が座っていた。僕らは彼女の両側に座る。

「冒険のお話を聞きたい!」

 僕らが座るなり彼女はそう頼んだ。

 フィーミェンさんへ暗黙に合図を送り、僕らの芝居が始まった。

「じゃあ行くよ?僕たちは原っぱを散歩してたんだけど」

 僕が始めるとフィーミェンさんが続ける。

「そうしたら草の中から出てきたのはなんと可愛いホーンラビット!」

 しかし僕らの話に少女は不満そうだった。

「もっとお話がいい!」

 そうせがまれ、倒したこともない、僕は見たこともない魔物の討伐物語が始まった。

 今度は彼女が始める。

「えーっと、私たちは暗いくらい森を探検していて、ブラッドウルフに出会いました」

 さっそく大ピンチ。僕はブラッドウルフたるものを知らない。名前からして赤い狼だろうか?どう進めていいかわからず、うまくフィーミェンさんへ返すことにした。ここで食い違えばこの娘の父親に怒られるだけでなく、フィーミェンさんに僕が異世界人ではないかと疑われてしまう。

「お、狼……じゃない。ブラッドウルフは僕たちに襲いかかったので倒すことにしました。」

「そうしたら、ブラッドウルフは仲間を呼び、一斉に私たちの方へ走り出しました」

「ブラッドウルフとかつまらないよ。ドラゴンとかは無いの?」

 少女が一気にハードルを上げてきた。僕らはこれから食い違わないようにドラゴンを倒した話を作り上げなければならない。幼き少女とはいえ、たくさんの冒険譚を聞いている彼女に適当なことを言えばすぐに嘘だと見破られてしまう。

「私ドラゴンを倒すお話が聞きたい」

 少女は待ってくれない。やるしかない。チームプレイだ!

次回、第十二話 偽りと夢

1/12 月曜日 17:20公開!

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